【書評】「両利きの経営」で学ぶ新規事業とイノベーションの失敗原則【感想】

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【書評】「両利きの経営」で学ぶ新規事業とイノベーションの失敗原則【感想】

こんにちは、外資系セールスから転職→現在はベンチャー企業にて起業家を支援している冨田到(@ItaruTomita9779)です。

大手企業さんのイノベーションや新規事業開発のお手伝いをしている中で、「どうやったら新規事業を作れるような組織になるんだろうか」というお悩みを多くいただきます。

結論としては、組織には固有の人材や文化がありますので、科学的な絶対解をすぐ出すことはできません。

しかし、失敗する組織の原則や、成功のための必要条件は色々な情報が集まってきており、学ぶことができます。

今回は、アクセラレーターでの現場感覚に加えて、「両利きの経営」の書評を通して、新規事業を生み出す組織について考えてみたいと思います。

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商品の説明

成熟企業の多い日本では、イノベーションが足りない

今、日本の成熟した大企業・中堅企業にとって最大の課題は、言うまでもなくイノベーションの創出である。本書は、 成熟した大企業・中堅企業がイノベーションを起こすうえで、経営学において最も重要といえる「両利きの経営」理論を、同分野を切り拓いてきた世界的な経営学者であるスタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授とハーバード大学のマイケル・タッシュマン教授が、圧倒的に豊富な事例をもとに解説していく本である。(解説より抜粋)

なぜ「両利きの経営」が何よりも重要か

本書の特徴

第1部…実際の企業のさまざまな成功事例と失敗事例を対比させながら、両利きの経営をはじめとして、イノベーションを考えるうえで主要な経営理論・フレームワークを解説。
第2部…多岐にわたる分野の企業が、いかに両利きの経営を展開していったかのストーリーを、「単発の事業・プロジェクトの事例」と「組織に仕組みとして埋め込んできた事例」の二つに分けて紹介。
第3部…両利きの経営を実践するための法則やルール、経営学と実践の架け橋を築いてきた著者2人からの提言を提示。

本書で事例として取り上げた主な企業

1章~3章…ネットフリックス、ブロックバスター、SAP、富士フィルム、コダック、アマゾン、シアーズ・ローバック、ボール社、スイスの腕時計メーカー、カジノ運営会社、新聞社、ファイアストン、RCA、大手航空会社
4章~8章…USAトゥディ、チバビジョン、フレクストロニクス、ダヴィータ、ヒューレット・パッカード、サイプレス・セミコンダクター、IBM、シスコシステムズ、ハバス・ワールドワイド、NASA、マイシス、ブリティッシュ・テレコム、ゼンサー・テクノロジーズ、ハイアール

著者について

チャールズ・A・オライリー
スタンフォード大学経営大学院教授
カリフォルニア大学バークレー校で情報システム学の修士号、組織行動論の博士号を取得。同校教授、ハーバード・ビジネススクールやコロンビア・ビジネススクールの客員教授などを経て現職。専門はリーダーシップ、組織文化、人事マネジメント、イノベーションなど。スタンフォード大学のティーチングアワードやアカデミー・オブ・マネジメント生涯功労賞などを受賞。また、ボストンのコンサルティング会社、チェンジロジックの共同創業者であり、欧米やアジアの幅広い企業向けにコンサルティング活動やマネジメント研修(破壊に対応するための企業変革や組織刷新、リーダーシップなどのプログラム)に従事してきた。スタンフォード大学のSEP(エグゼクティブ・プログラム)でも教鞭を執る。主な著書にWinning Through Innovation(邦訳『競争優位のイノベーション』ダイヤモンド社)、Hidden Value(邦訳『隠れた人材価値』翔泳社)などのほか、論文や記事の執筆も多数。

そもそも、新規事業の開発はなぜ難しいのか?

多くの日本企業は既存事業の売上が伸び悩んでおり、新規事業の道を模索し始めています。

他方で、まずはそもそも論ですが、なぜ新規事業はどこもこんなに苦労しているのでしょうか?

会社ごとにも、新規事業の定義にもよりますが、成功確率で言うと大体5%~30%くらいと言われています。

私は、社内新規事業支援をしている中で、この成功確率を左右するポイントは、人材と組織の2つに分かれると思っています。

人材については、「そのひとが本気でやりたいと思うビジョンがあり、現場の顧客の一次情報に向き合い、未来を創る意志があるか」、ということです。

特に市場をゼロから作るレベルの新規事業になると、市場を予測するのではなく創り出す発想が必要だからです。

そもそもの起業や新規事業の難しさについては、興味がある方は下記の記事も参考いただければと思います。

組織については、「新規事業を歓迎するカルチャー、人事評価制度、事業部構造」などに依存します。

スタートアップで起業をする際には、組織的な失敗の論理はそこまで足を引っ張りませんが、大企業であるほど、これは克服しなければなりません。

かつて、クリステンセン教授がイノベーションのジレンマでも、組織でのイノベーションが難しい理由を(めちゃくちゃ簡単に言うと)「組織の評価軸が既存事業の売上を伸ばすことに重きを置かれているから」と、書かれています。

イノベーションのジレンマについても、もっと詳しく言うと、色々と理由はあるのですが、ご興味ある方はこちらをご参考ください。

人材と組織、この2つの壁を乗り越えない限りは、新規事業は難しいということなのです。

更に厄介なのが、組織というものは、個社ごとに「人材のレベル、カルチャー、人事評価制度、事業部構造」が異なります。

なので、もし、自社が新規事業を作り出せる体質にしていくのであれば、自社の課題がどこにあるのか?を紐解く必要があります。

「両利きの経営」という本が役に立つのは、グローバルカンパニーの新規事業に取り組む際の組織変革の研究が集まっており、個社ごとの成功と失敗から、その原則を知ることができるところです。

「両利きの経営」とは?

さて、まずは「両利きの経営」について、簡単にご紹介します。

『両利きの経営』とは?

『両利きの経営』=探索(自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げていこうという行為)と深化(探索を通じて試したことの中から成功しそうなものを見極めて、磨き込んでいく活動)がバランスよく高い次元で取れていること。

しかし一般的に企業には、事業が成熟するに伴いどんどん深化に偏っていく傾向がある。コストとリスクを伴う上に成果が不確実な探索よりも、社会的な信頼を確保できる深化に向かってしまうのだ。(解説より抜粋)

わかりやすく言えば、企業活動において、既存事業(深化)と、新規事業(探索)をバランス良く事業のポートフォリオを組めていることですね。

そして、なぜこれが両利き(Ambidexterity)と言われているかというと、既存事業と新規事業では、それを支える価値基準が全く別物になるからです。

言い換えると、深化は経営者的マネジメントの問題であり、探索は起業家的リーダーシップの問題なのです。

既存事業を伸ばすためには売上を徐々に上げていくためのKPIの達成をマネジメントし、探索は未来の見えない市場を創り出すためのリーダーシップが必要なのです。

そして、特にリーダーがイノベーションに理解のない普通の会社では、既存事業に対する新規事業は、評価がされにくいものです。

例えば、その会社の既存事業部の人々にとっては、新規事業は、はじめの段階では売上も少なく、結果も出にくいため、取り組むためのモチベーションが既存事業よりも劣後するんですね。

リーダーがこれを後押ししなければ、社員も既存事業を優先してしまいます。

この相反する事業を同時に深化・探索するのが「両利きの経営」ということになり、既存事業の伸び悩む会社が取り組むべきものなのです。

「両利きの経営」から学ぶべき失敗法則

しかし、会社というものは生き物ですから、自社に成功事例を真似すればうまくいくわけでもないというのは、みなさんもご存知のとおりです。

他方で、「両利きの経営」の事例から、「新規事業を成功させるために、これはやってはいけない」という失敗原則を学べる点は意義深いですね。

意識的な成功は難しいかもしれませんが、失敗は阻止できるでしょう。それだけでも学ぶ価値がある本です。

具体的な成功と失敗の法則を抜粋すると下記のとおりです。

  • 既存事業と新規事業を両立させるためのリーダーシップがないと、新規事業は既存事業より優先順位が下がる
  • 既存事業と新規事業に共通する社員が共感するビジョンを打ち立てないと、連携ができずに新規事業のリソース調達が失敗する。
  • 既存事業と新規事業の報酬体系や人事評価制度を、連携を取るために全社的な評価指標にしないと、既存側の新規へのモチベーションが下がり、新規事業への取り組みが”優秀”な管理職に止められる
  • 既存事業と新規事業の部門を分けつつも、CEOクラスの直下に新規事業をおかないと、新規担当者が支持を受けられず、既存事業から孤立し、会社の強みのリソースを使えず失敗する。
  • 新規事業として採用する、スピンアウト・インする基準(利益、顧客価値、市場開拓性など)を明確にしないと、新規事業アイデア偏重になり、逆にリソースを奪われ、新規事業の注力とスケールに失敗する。

「両利きの経営」を読み込むと、これらの原則をアマゾンやNASA、コダックやIBM、シスコなどの成功と失敗の両面の事例から学ぶことができます。

「両利きの経営」の事例

例えば、アマゾンのCEOジェフ・ベゾスは、自社のビジネスについて、常に「顧客経験・価値の最大化」を目指していたわけです。

この本質的なビジョンメイキングがあるからこそ、本の通販から始まり、それを駆逐するようなキンドル電子書籍に取り組むことができ、そしてAWSも作ることができたのです。

他方で、かつてのアメリカの小売大手のシアーズは、カタログ通信販売で一時代を築いたのにも関わらず、経済の成熟で都市部の移動とモノの需要が減少した結果、自社に目が行き、ビジョンを描けず没落しました。

IBMにおいても、今はIBMワトソンに見られるようなAI・ITサービス業になっていますが、以前はコンピュータ製造業がメインだったわけです。

この背景には、IBMの時のCEOガースナーは、EBO(Emerging Business Opportunity)というプロジェクトによって、152億ドルも新規事業で獲得したものがあります。

ガースナーはIBMが上手く行かない理由を下記のように分析して、EBOによって改善した結果、両利きの経営を実現したのです。

詳しく内部分析をしてみると、IBMがいつも新技術と市場機会を逃してしまう主な理由は六つあった。

①既存のマネジメントシステムは、短期的結果に向けた実行に報酬を与え、戦略的な事業構築を重視していない……IBMはプロセス志向である。社内で報いられる有力なリーダーシップスタイルは、目の前の機会をつつがなく実行することであって、新分野を開拓することではない。ブレークスルーを生む思考は重要なリーダーシップ能力として重視されていなかった。

②IBMは既存の市場や製品・サービスしか眼中にない……既存顧客の声に熱心に耳を傾け、従来の市場に集中するようにプロセスが設計されていた。破壊的技術もしくは新しい市場やビジネスモデルになかなか気づけないプロセスになっていた。

③ビジネスモデルで強調されていたのは、価格や利益を高める行動よりも、持続的な利益や一株当たり利益の改善である……イノベーションを加速させることよりも、安定した事業ポートフォリオの収益性を高めることが重視されていたのだ。新規事業は一~二年以内に損益分岐点に達する必要があるという非現実的な期待値が設定されていた。

④市場インサイトを収集し、利用するという同社のアプローチは、初期の市場には適さない……事実ベースの財務分析にこだわるあまり、はっきりしない新市場に関する情報を生み出す能力が損なわれていた。しっかりした分析が添えられていないがために、市場インサイトが無視もしくは却下されることもよくあった。

⑤新しい成長事業の選別、実験、資金提供、終了について規律が確立していない……新たな成長事業の機会が確認されたときでさえ、既存のマネジメントシステムでは資金を提供できなかったり、創造的な新規事業を開発する力を制限したりしたのだ。さらに悪いことに、リーダーたちは成長機会に成熟事業のプロセスを当てはめた結果、新しいベンチャーを苦境に追いやり、息の根を止めてしまった。

⑥ひとたび選定過程を通過しても、実行段階で失敗する新規ベンチャーが多い……新しいビジネスモデルを設計し、成長事業を築くための起業家的リーダーシップスキルがなく、スタートアップに必要な忍耐や持続性も不足していた。

他方で、同じくシステム系の会社であるシスコも、同じように自社内での新規事業プログラムを走らせましたが、新規事業の評価基準が曖昧で、アイデアに溢れた結果、自滅してしまったようです。

シスコも社内選考において、いくつかの選考基準はありましたが、出口戦略や採用の可否が下記のIBMの基準のようには明確ではなかったようです。

人々を一つのEBOに割り当てていたIBMと違って、シスコでは多くの場合、パートタイムの仕事として参加していた。IBMでは、規律的な資金提供プロセスや入念なマイルストーンのモニタリングがあったのに対し、シスコの新しいベンチャーは事業部門ユニットから資金調達先を探さなくてはならない。この結果、すぐに焦点がぼやけ、新プロジェクトの多くは資金不足に陥ったのだ。

社内新規事業は人材のレベルアップも大事

以上、「両利きの経営」から我々が学ぶべき失敗を書評的に振り返ってみました。

社内新規事業において、組織の重要性を理解いただけたかと思いますし、落し穴がたくさんあることにも理解いただけたと思います。

他方で、アクセラレーターや社内新規事業のサポートをする中で、より現場に目を向けてみると、そもそもの社内起業人材のレベルを上げることも大事です。

人材レベルでは、「顧客のニーズを掴めていない、自社のプロセス改善、既存事業の横展開を新規事業だと認識している」、などのそもそもの問題もあります。

大企業が自分たちの組織で苦しむ中で、それを尻目に、スタートアップの経営者は全力で顧客の課題を、掘り進めるわけです。

どちらの肩を持つわけでもありませんが、これに対抗するには、やはり先行企業は自社のアセットを活用することが勝ち筋ですよね。

スタートアップが持ってないサプライチェーンや顧客接点や製造技術、これを活かせないと社内新規事業の意味もありませんが、これが活かせれば非常に価値の高いビジネスもできるかもしれません。

また、顧客ニーズすら掴めていないアイデアレベルから脱却するために、まずは一歩でも行動してみることを推奨しましょう。

行動というのは、アイデアを同僚に人に話してみるとか、顧客にぶつけてみるとか、とにかく人に話すことですね。

そして、「両利きの経営」でもそうですが、結局は組織で新規事業を行うのであれば、マネージャーやCEOの「Goサイン」が必要になります。

提案を通すためにも、マネージャーは何に興味があるのか、上が納得する(心意気でも良い)事業計画書が描けているのか、常に組織の存在を意識しましょう。

人と組織と「両利きの経営」

当たり前のことを言いますが、会社は組織であり、組織は人の集まりです。

組織は一定のルールや規律や文化に沿って、個人が集まる意味があるからこそ、組織足り得るわけですが、両利きの経営のためには、人が正しく楽しく働くための構造と人材が大事なわけです。

組織やルールを変えたから、両利きの経営ができるわけでもありませんし、優秀な人材がいればイノベーションが起きるわけでもないことは、釈迦に説法でしょうか。

PIXIRも、スティーブ・ジョブズとローレンス・レビーの両利きの経営であり、意識的に読んでみると、非常に参考になります。

結局は組織は生き物なので、薬のように特効薬はなく、自分たちの組織には何が足りないのか、両利きの経営や、イノベーションのジレンマなど、先行事例を参考にしながら試行錯誤するのが大事なのでしょう。

両利きの経営を読み、あなたは何を学び、実行しますか?

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