【書評】「イノベーションのジレンマ」に見る組織と新規事業の落し穴【要約】
こんにちは、外資系セールスから転職→現在はベンチャー企業にて起業家を支援している冨田到(@ItaruTomita9779)です。
突然ですが皆さん、iPhoneっていつ頃から使い始めましたか?気づいたら広まっていたような気がしますよね。
また、Uber eatsや、Airbnb、日本でも多くの人がここ1~2年で使うようになりました。
例を挙げればきりがないですが、日本でもスタートアップのサービスが一気に浸透してきているわけです。
なぜ、日本のリーダー的な大企業がこれらのサービスをやっていないのでしょうか?
市場を占拠している日本企業のほうが、絶対的に優位に見えますが、現実は違いますよね。
今回は、「なぜ日本の大企業ではなく、スタートアップがイノベーション(技術×市場で新しい価値・事業を生み出す)を起こしているのか?」という問いに一つのヒントを与えてくれる本を紹介します。
それがクレイトン・クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」です。
今回は、クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」の書評と要約になります。
初版から20年ほど経ちますが、全く色褪せない名著ですし、現代でも通ずる洞察がなされています。
内容紹介
米国の経営手法に革命を起こした「現代の古典」が、増補改訂版として刊行
業界を支配する巨大企業が、その優れた企業戦略ゆえに滅んでいくジレンマの図式を分析し、既存事業を衰退させる可能性を持つ破壊的イノベーションに対して、経営者はどう対処すべきかを解説する。2000年刊の増補改訂版。
「偉大な企業はすべてを正しく行うが故に失敗する」
業界トップ企業が、顧客の意見に耳を傾け、新技術に投資しても、なお技術や市場構造の破壊的変化に直面した際、市場のリーダーシップを失ってしまう現象に対し、初めて明確な解を与えたのが本書である。
著者、クリステンセン教授が掲げた「破壊的イノベーションの法則」は、その俄に信じがたい内容にも関わらず、動かしがたいほどに明晰な事例分析により、米国ビジネスマンの間に一大ムーブメントを引き起こした。
この改訂版では、時代の変化に基づく情報更新と破壊的イノベーションに対応するための組織作りについて、新章が追加されている。
【原書タイトル】The Innovator’s Dilemma
なぜスマートフォンを日本の大企業が開発・販売できなかったのか?
iPhoneを例に考えましょう、なぜiPhoneは日本のメーカーが作れなかったのでしょうか?
我々はガラケー(ガラパゴス携帯)を2010年くらいまで、使っていましたよね。
人によっては、謎のスライド式の携帯や横型の携帯など、今思えば「何が良いのかわからない」携帯を、目新しいという理由で買っていた人もいましたね。
そこで、急激に2012年くらいから、Appleの開発したiPhoneが出てくるわけです。
日本のメーカーだって、ガラパゴス携帯の市場では頑張っていたのに、急に市場を奪われてしまいました。
日本の大企業がイノベーション(技術×市場で新しい価値・事業を生み出す)を起こせなかったわけです。
クリステンセン教授は、このように、大企業がイノベーションを起こせない理由を「経営者が優秀」だからと言っています。
「経営者の優秀さ」と「持続的技術」
はて、経営者が優秀なのに、イノベーション(技術×市場で新しい価値・事業を生み出す)を起こせないとは、どういうことでしょうか?
「イノベーションのジレンマ」では、下記の記述があります。
本書を通じて、日本の読者に伝えたいもう一つの日本特有の問題は、ここ数年日本経済が停滞している理由に関係している。その理由は右にあげたような日本の大企業が本書で取り上げた各業界と同様の力に動かされていることにある。優れた経営者は市場の中でも高品質・高収益率の分野へ会社を導くことができる。しかし会社を下位市場へ導くことはできない。日本の大企業は世界中の大企業と同様、市場の最上層まで上り詰めて行き場をなくしている。本書で報告する研究は、後者の見解を支持している。優良企業の場合、優れた経営こそが業界リーダーの座を失った最大の理由である。これらの企業は顧客の意見に耳を傾け、顧客が求める製品を増産し、改良するために新技術に積極的に投資したからこそ、市場の動向を注意深く調査しシステマティックに最も収益率の高そうなイノベーションに投資配分したからこそ、リーダーの地位を失ったのだ。
ここでいう「優秀さ」とは、企業を「高品質で高収益な市場」へ導き、「顧客の声に真摯に耳を傾ける」ことを指します。
企業は利益を追求しますので、高収益を達成できる経営者は当然優秀なわけです。
また、市場において、高収益を達成するためには、ありふれた製品ではなく、顧客のニーズに基づいた差別化をしていく必要があります。
そのために、「優秀な経営者」は、自分たちの顧客の声をしっかり聞いて、顧客の望む製品に改良し、高収益を達成するわけです。
自分たちの技術で、自分たちの市場の製品を改良していくことを、「イノベーションのジレンマ」では、「持続的技術・持続的イノベーション」と表現します。
携帯電話で言うならば、日本の家電・通信メーカーがそれらの技術を使って、ガラケーを改良し続けたことが、「持続的技術・イノベーション」ですね。
しかし、スマートフォンは「持続的技術・イノベーション」の先にはないのです。
なぜでしょうか?
「下位市場」と「破壊的技術」
なぜならば、スマートフォンのようなイノベーション(技術×市場で新しい価値・事業を生み出す)は、先程の引用に出てきた「下位市場」から生まれるからです。
「下位市場」とは、顧客の数も少なく、利益率も低いような市場で、一見儲からなさそうで、伸びるのかもわからない市場なのです。
「上位」の市場にいるような、「日本の優秀な経営者」には、そのような市場に気づくはずもなく、「持続的技術」に邁進するのです。
しかも、「持続的技術」の市場の顧客は、自分のたちが「スマートフォンを欲しい」と自覚していないので、「優秀な経営者」はもっと気づきません。
また、本書では、下記の記述があります。
技術革新のベースが時に市場の需要のペースを上回るため、企業が競争相手よりも優れた製品を供給し価格と利益率を高めと努力をすると、市場を追い抜いてしまうことがある。顧客が必要とする以上の、ひいては顧客が対価を支払おうとする思う以上のものを提供してしまうのだ。さらに重要な点として破壊的技術の性能は現在は市場の需要を下回るかもしれないが明日には十分な競争力を持つ可能性がある。
上記の引用にあるように、優秀な経営者は、「持続的技術」を伸ばし続けるため、最終的には顧客のニーズを超えた製品・サービスを提供してしまうのです。
これも、我々には馴染みがある現象だと思います。
例えば、日本の多くの家電メーカーがしてきたように、顧客が求めない性能ばかり上げてしまうことです。
よくわからない、機能、謎のボタン、使ったこともないモード、顧客の声に耳を傾け続けた結果、間違った方向に進んでしまうことがあるのです。
そのような状況下で、「下位市場」に潜むスマートフォンのような「破壊的技術・イノベーション」が市場を急激に奪ってしまうのです。
「破壊的技術」とは、「持続的技術」の市場の価値基準とは違い、性能(低いことが強みのこともある)・価格・利益・便益を生むような「技術」を指します。
ガラケー(持続的イノベーション)は人々に電話をポータブルにしましたが、スマートフォン(破壊的イノベーション)は人々のポケットにパソコンをもたせたように、「価値基準」が全く違うわけです。
今回のブログではわかりやすさの観点からスマートフォンを選びましたが、本書では、ハードディスクドライブの事例でこれらを図式にして提示しています。
2.5インチドライブ(持続的技術)は、ノートパソコンに求められる容量(顧客のニーズ)を超えてしまっています。
その他法で、1.8インチドライブ(破壊的技術)とフラッシュメモリー(破壊的イノベーション)が下位市場に潜んでいることが、本書の図示から理解できます。
クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」とは
つまり「イノベーションのジレンマ」とは、端的に言うと、下記のことを指します。
「優秀な経営者」であるゆえに、「破壊的技術・イノベーション」を選べず、市場が奪われる前に、「破壊的技術・イノベーション」を掴みたいけれど、「優秀さ」が邪魔をしてしまうこと。
これは大企業であっても、ベンチャー企業であっても、気をつけないといけないことです。
ある程度成長してくると競合との競争が当然出てきます。
その際に、顧客に対して、「我々の提供価値は何か」という意識を持つ事は非常に重要です。
競合との争いの中で、自らのサービスや製品が、顧客の望まない「持続的技術」に行き過ぎていないか、「破壊的技術」を見過ごしていないか、注意しなければならないのです。
「イノベーションのジレンマ」を理解しておくことは、下記のような判断軸を持つことに他なりません。
破壊的イノベーションの法則は、どのような場合に広く認められている優良経営の原則に従うべきであり、どのような場合に他の原則が適してるかを、判断するための法則である。
あなたの会社の製品・サービスは業界的には、持続的技術でしょうか、そして市場には破壊的技術の存在はありますか?
イノベーションは下記の画像のように、繰り返すので、自分のポジショニングを確認しながら、経営判断をする必要がありますね。
では、「イノベーションのジレンマ」に陥る原則をもっと掘り下げると、どのような項目になるのでしょうか?
当然、「イノベーションのジレンマ」を避けたいのであれば(凋落を良しとするならば気にしないが)、考える必要がありますが、次のような原則が挙げられています。
- 原則1:企業は顧客と投資家に資源を依存している。
- 原則2:小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない。
- 原則3:存在しない市場は分析できない。
- 原則4:組織の能力は無能力の決定的要因になる。
- 原則5:技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない。
原則1:企業は顧客と投資家に資源を依存している。
つまり、企業が破壊的技術で成功するには、経営者が資源依存の力を無視したり、戦ったりせずに、その力と組織を調和させる必要がある。たいていの破壊的技術の特徴である、低い利益率で収益性を達成するための、コスト構造を持った独立組織を設立することが、実績ある企業がこの原則に調和する唯一の有効な手段である。
優秀な起業家は実現したい未来を掴み取るために、市場や顧客を自分から定義しますが、一般的な経営者は別です。
熟達した起業家の研究については、下記のエフェクチュエーションをご参考ください。
経営者は、自分の会社の顧客と資源(投資家=お金の出本)に依存したビジネスをしがちです。
もちろん当然、ニーズに沿った各自性の高いビジネスであることが、ある期間とある市場においては、勝てる確率が上がるからです。
また、「下位市場」に降りようとすれば、投資家たちから「収益性の低い領域に行くなんて言語道断だ」と、言われかねないですよね。
しかし、これは持続的技術に邁進しがちであること、目の前の顧客に対して、自分たちの強みで市場の収益性を達成してしまうことに通じます。
それでは、徐々に近づいてくる破壊的技術に、市場を席巻されてしまいます。
このような経営者や組織がイノベーションを起こすためには、「優秀な経営」の価値基準を忘れないといけません。
例えば、本社のKPIや収益基準から外れた独立組織を作るか、本社の価値基準を変えないと、イノベーションが生みづらいですよね。
破壊的技術は初期の段階では、収益率も低く、性能も低い製品であることを、受け入れられる組織である必要があるのです。
起業家を目指す人は逆にこれを利用して、企業が依存してしまっている顧客や資源(投資家)を明らかにして、低い収益率や低い性能でも不満を解消できる顧客を探せば、市場で勝てる可能性があります。
原則2:小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない。
しかし、40,000,000ドルを売り上げる企業が20%の成長率を達成するには、翌年の売上高を8,000,000ドル増やすだけで良いが、40億ドル企業では8億ドルの増収が必要である。これほどの規模を持つ新市場は無い。そのため組織が大規模になり、成功するに従い、新しい市場を成長の原動力とすることに無理が生じる。伝統的な大企業の中で、破壊的技術によって生み出された、新しい市場で強力な地位をつかんだ企業は、目標とする市場の大きさに見合った規模の組織に、破壊的技術を商品化する任務も与えることによって成功している。
企業がイノベーションに基づく新規事業ができない理由、価値基準の1つとして売り上げ規模のがあります。
売り上げが100兆円の会社と10億円の会社では求められる成長率が違います。
大手企業が求める新規事業と商店街にある八百屋が求める新規事業では求められる市場の規模が違いますよね。
皆さん、トヨタさんをイメージしてみてください。
売上高は30兆円もある会社になります。
そのような企業が、1からイノベーション(技術×市場で新しい価値・事業を生み出す)=新規事業を起こそうとしたら、どれだけの市場規模を求められるでしょうか?
10億クラスでも小さい市場かもしれませんし、新しいクルマを作ったほうが早いかもしれません。
成功するかもわからない事業に既存のリソースを割けるでしょうか?
トヨタさんクラスだと、新規事業に対する価値基準を別組織しているとは思いますが、社内での新規事業提案は通りづらいでしょう。
企業が大きくなるにつれて、新しい市場に新規事業に挑戦できなくなる可能性さえもあると言うことです。
破壊的技術の市場規模にあったミッションの組織や、命令系統・価値基準の組織編成を行う必要があるのです。
そして、事実としてあるのは、日本の車メーカーがライドシェアを実現はしなかったということです。
当然、日本の車メーカーには優秀なメンバーが多いので、アイデアはあったはずです。
しかし、実現したのはUberで、最初のマーケットは小さかったと思いますが、今ではUber全体で3300億円ほどの売上があります。
スタートアップにライドシェアを奪われてしまったとも言えます。
逆に言えば、Uberのように、起業家を目指す人は、まずは大企業が狙えない小規模な市場を狙うことで、市場が成長した結果、大企業にも大きい市場で打ち勝つことが出来るのです。
原則3:存在しない市場は分析できない。
確実な市場調査と綿密な計画などで計画通りに実行することが優れた形の王道である。第7章で取り上げるディスクドライブ、オートバイ、マイクロプロセッサーの各業界の実績から確実に言えるのは、新しい市場がどの程度の規模になるかについて専門家の予測は必ず外れると言う事だけだ。
優秀な経営者は市場に参入する際には、「高い収益が出そうか、儲かるのか?」としっかり調査をしますよね。
しかし、破壊的技術や破壊的イノベーションの存在する下位市場は、分析や予測ができないのです。
おもしろいことに、ホンダは、北米のオートバイの潜在市場の規模も正確に予測できなかったばかりでなく、潜在市場の規模も正確に予測できなかった。一九五九年に参入した当初の目標は、年間五五万台、年間成長率五%と予想される市場で、一〇%のシェアを獲得することだった。一九七五年には、市場は年一六%の成長率で年間五〇〇万台の規模に達している。そのほとんどは、ホンダが予測できなかった用途から生まれたものだ。
ホンダさんは、北米のオートバイの市場に打って出た時期があったのですが、想定してたニーズでは全く売れなかったわけです。
しかし、ある時、社員たちが郊外をバイクでツーリングをしていると、そのツーリングを真似したいと、言ってくれるお客さんが出てきたわけです。
ホンダさんとしては、全く想定していなかったんですね。
ホンダさんの事例はまさしく、新しい市場というものは予測ができないと言うことを示しています。
新しい市場を予測して参入を考えるのではなく、行動しながら市場があるのかどうかを確認すると言う「発見志向」が大事なのです。
今の予測しにくい時代の起業家であれば、ぜひ理解しておいていただきたいのですが、成功のために市場分析を信じすぎずに、現場での小さい顧客のニーズに耳を傾けるべきなのです。
原則4:組織の能力は無能力の決定的要因になる。
組織の能力は組織内で働く人材能力とは関係ない。組織の能力はそのプロセスと価値基準にある。現在の事業モデルの核となる能力を流すプロセスと価値基準が、実は破壊的技術に直面したときに生能力の決定要因となる。
少し抽象的なので、具体的に言うと、「ガラケー」を開発・販売し高収益を上げることに特化した企業の能力では、「スマートフォン」を開発・販売し高収益を達成することに特化しづらいということです。
「ガラケー」を作るための能力(資源・プロセス・価値基準)が「スマートフォン」を作れない、いわば無能力を引き起こしているのです。
この能力について、破壊的技術に直面した時に、持続的技術を持つ企業が対応できない理由の重要な点なので解説します。
組織に出来ること、できないことを決定する要因には、3つあります。
- 1つ目が資源
- 2つ目がプロセス
- 3つ目が価値基準
資源
資源とは、人材であったり、設備・生産能力のようなものです。
他にも開発技術や商品、デザイン力、ブランド力、情報、資金、さらには供給業者や流通業者、顧客の関係なども挙げられます。
プロセス
プロセスは、それらを使って顧客に価値を届ける仕組みのことで、ビジネスモデルのようなものを指します。
持続的技術や破壊的技術における、技術とも言えます。
資源を使ったプロセスには、製造プロセスだけでなく、商品開発・調達、市場調査、予算作成、事業計画、人材開発や給与決定、資源配分なども含まれます。
価値基準
価値基準は、売り上げに対する見方であったり、会社のビジョンやミッション、方向性を示します。
また、人材に対する評価や会社のカルチャー、新しいことへの取り組みの姿勢などもこちらに示されます。
マッキンゼーが、コンサル業界の中でも大成功を収めているのは、どのプロジェクトにどの人材を割り当てても関係ないほど、「プロセスと価値基準」が強力であることが本書で書かれています。
というのも、マッキンゼーは人材の流動性が非常に激しく、新卒MBAの入社に伴って、毎年同じ空人数が辞めていきます。
それでも顧客満足度の高い価値の仕事ができるのは、プロセスと価値基準が非常に強力だからです。
人が重要なのにも関わらず、人材に左右されない、このプロセスと価値基準が彼らの人気を打ち出しているのです。
能力の決定要因としての資源・プロセス・価値基準
他方で変化の激しい市場=テクノロジー系やスタートアップ業界においては、自らのバリューを発揮するのが難しく変化に対応しづらいために、資源=人材の力が求められるケースもあります。
ただ、そのような業界も成長するにつれて、成功体験を積み重ね、資源=人材によらない組織を目指してきます。
これは要するに、属人化しないために、企業のプロセスや価値基準が固まってくることになります。
これはいわゆる文化を形成することになりますので、企業は成長するがゆえに、組織の能力が決まってしまい、その能力によって無能力も決まってしまう、ということなのです。
つまり、できないことも決まってしまうわけです。
組織の能力が人材にあるうちは、新しい問題に対応することは比較的簡単なのですが、能力がプロセスや価値基準の中に存在するようになると、変化がかなり難しくなってくるんです。
これもかなりのジレンマですね。
新しい市場に参入するときには、これらのプロセスと価値基準が収益性の高さを志向するのであれば、邪魔になることもあります。
製品やプロセスの性能上の問題を解決するために、過去に蓄積してきた知識と全く異なる知識が必要になるとき、その企業はつまずく可能性が高い。顧客が必要としなければ、技術的に簡単なイノベーションでも、商品化は不可能と判断した。IBMはシーゲートの破壊的な3.5インチドライブに全く関心を示さなかったことも無理からぬことだった。IBMの技術者とマーケティング担当者は40から60 MBのドライブを求めておりコンピューターにはすでに5.25インチドライブのスロットを組み込んでいた。IBMが必要としていたのは確立してきた性能の軌跡をさらに向上させる新しいドライブである。
ディスクドライブ市場の事例では、既存技術に裏打ちされた市場は、そこまで難しくない新規技術の負けてしまう事例が多いのです。
顧客の声を聞いているはずの既存市場の優秀な企業が、新規技術の市場にまくられてしまうのです。
大手企業は「自社の顧客=プロセスと価値基準」に束縛されていたからこそ、新しい技術に目を向けられないのです。
だからこそ、新規企業が業界のリーダーである大手企業に勝てるわけです。
起業家やスタートアップは、能力が確定していないからこそ、無能力もなく、大企業に勝つことが出来るのです。創りたい市場に対する能力を常に定義し続けましょう。
原則5:技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない。
顧客のニーズに対して、技術が性能が高ければ売れるわけでもないし、そもそも顧客のニーズがなければ技術は発見されない。いやむしろ、顧客のニーズや市場を乱すような技術が、そのニーズに適応して来なければ、市場は生まれないので、市場の需要と等しいとは限らないのである。競合する複数の製品の性能が、市場の時を超えると、顧客は性能の差によって製品を選択しなくなる、製品選択の基準は、性能から信頼性、さらに利便性から、価格へと進化することが多い。
技術が市場のニーズと等しいとは限らないというのは、前述の通り、顧客が求める以上の技術を提供してしまうことがあることの証左なのです。
ウィンダミア・アソシエーツというところが作成した「購買階層」という製品進化モデルによれば、市場への技術の供給は、時間が経つに連れ、性能の供給過剰と製品競争をもたらします。
このモデルでは「機能→信頼性→利便性→価格」の4段階の市場ニーズで、製品の供給はサイクルするのです。
このサイクルでは、市場のニーズに対して、どんどんどんどん過剰に満たし、最終的には価格で判断されてしまうくらいに、市場のニーズを超えてしまうのです。
今のiPhoneはまさに、持続的イノベーションがハイエンドに向かっており、「そんな高級なモデル必要?」と言える状況でしょう。
確立された市場では魅力のない破壊的技術の特徴が、新しい市場で大きな価値を生むことがある。
また、顧客のニーズを超えてしまうことに加えて、顧客がほしいと思っていても、技術がまだ見つかっていないこともあることも示唆されています。
市場は分析できないことに近いのですが、持続的技術の市場の需要と、破壊的技術の市場の需要は見えづらさの違いを理解する必要があります。
シーゲートのマーケティング担当者は、顧客の関心をほとんど得られなかったため、悲観的な売り上げ予想を立て、さらに新しい製品の方が単純で性能が低いため、利益率も高性能な製品より低いと見込んだ。
上記のようなハードディスクドライブメーカーのシーゲートの例では、経営者が破壊的なイノベーションを支持したケースもあったそうです。
しかし、マーケティング担当者が、市場の需要が見えなかったために、資源の投入を見送ったと言うことも事実としてあるそうです。
目標に対して期待の収益が確実に見えない・得られないことが、組織がイノベーションを起こす上でボトルネックになってしまっていると言う事なんですね。
顧客の声を聞けといいますけれども、実際に顧客の声を聞いたようなハードディスクドライブ業界のトップメーカーたちは、持続的イノベーションのために奔走してしまったんですよね。
つまり、顧客の声を聞いて良い時は、持続的なイノベーションが有効である時だけです。
また、破壊的イノベーションをしたい時に、その対象になる顧客の声を聞ける時だけなんだと思います。
「顧客の声を聞け」とよくいいますけれども、顧客の声が自分を滅ぼすこともあると言う事は理解しないといけないですね。
市場の需要が見えないからこそ、「顧客の先」を見据えて、技術を供給しすぎず、破壊的技術の存在を注視しつつ、ある種怖がりながらも決断していく慎重さと大胆さが求められるわけです。
大企業にとって、市場の需要が見えないことは、市場への進出を妨げるので、起業家にとっては、市場のニーズや成長性が見えづらい領域にこそ、逆に飛び込む勇気が必要と言えます。
イノベーションのジレンマを乗り越える組織構造
さて、上記のように、「イノベーションのジレンマ」は、「経営者の優秀さ」ゆえのジレンマであるため、解決は言葉でいうほど容易では有りません。
また、項目の締めくくりで示したとおり、起業家であればそこを突くことで、市場のシェアを奪うことができます。
イノベーションのジレンマについて、多くの会社は自覚してはいるけど、動けない、こんな状況ですよね。
しかも、創業者であれば、到達したい目標に対して既存の製品と同等の投資を資源の配分を行うというのはできるかもしれないのですが、経営者にはトップダウンでの決断が難しいものです。
なぜならば、特殊な価値基準やビジョンで動く創業者と違って、優秀な経営者は、顧客と投資家に判断を依存してしまっているのです。
他方で、本書では、上記の各項目について、ジレンマに負けずに、破壊的技術を獲得できた企業の行動を列挙しています。
- 破壊的技術を開発し、商品化するプロジェクトを、それを必要とする顧客を持つ組織に組み込んだ。経営者が破壊的イノベーションを「適切な」顧客に結びつけると、顧客の需要により、イノベーションに必要な資源が集まる可能性が高くなる。
- 破壊的技術を開発するプロジェクトを、小さな機会や小さな勝利にも前向きになれる小さな組織に任せた。
- 破壊的技術の市場を探る過程で、失敗を早い段階に”わずかな犠牲で”とどめるよう計画を立てた。市場は、試行錯誤の繰り返しの中で形成されていくものであると知っていた。
- 破壊的技術に取り組むために、主流組織の資源の一部は利用するが、主流組織のプロセスや価値基準は利用しないように注意した。組織の中に、破壊的技術に適した価値基準やコスト構造を持つ違ったやり方を作り出した。
- 破壊的技術を商品化する際は、破壊的製品を主流市場の持続的技術として売り出すのではなく、破壊的製品の特徴が評価される新しい市場を見つけるか、開拓した。
どの項目にも共通するのが、組織改革であり、市場を分析ではなく創り出そうという姿勢ですよね。
この組織と市場への姿勢が、イノベーションを起こす上で、非常に重要なわけです。
組織の獲得と「プロセスと価値基準」の変化
組織の変化と市場への姿勢、すなわち組織の能力は、組織の構成要素である、1.資源、2.プロセス、3.価値基準をいじることで変えることができます。
資源自体は買ったり売ったり、採用したり解雇すれば調整はできますので、破壊的技術を達成するためのM&Aやスピンオフ・アウトを駆使することは有効です。
他方で、資源だけでは意味がないので、それらの資源を使って(技術の外適応)、プロセスと価値基準をいかに変えるか、というための活動が必要になります。
なぜなら、プロセスと価値基準が変わらなければ、資源が増えても、同じ持続的技術に投資してしまう危険性があるからです。
本書によると、企業・組織がイノベーションのジレンマにはまらないためには、下記の3つの方法があるそうです。
- 買収による能力の獲得:資源の獲得を目的とするなら有効
- 新しい能力を内部で生み出す:難易度は高いがプロセス・価値基準の変更を目的するなら有効
- スピンアウト組織によって能力を生み出す:CEOが破壊的技術市場で勝つためにプロセス・価値基準を変えるために行うなら有効
社内でイノベーションを起こすのであれば、破壊的イノベーションのための適切な資源はあるか、適切なプロセスと価値基準になっているのか、を確認します。
社内では、適切なプロセスや価値基準が構成できなければ、社外にそれを構築します。
いくつか社内変革の重要な要点をみてみましょう。
企業のカルチャーが生み出す結果としてのイノベーション
企業が新規事業やイノベーションを起こす上で、現場の社員を輝かせるカルチャーは非常に重要です。
どのようなカルチャーが重要かというと、イノベーションは新結合(A×B)であることを考慮し、考えましょう。
例えば、従業員が組織の枠を超えて、自分のやりたいことを提案したり、実現できる組織である必要があります。
現実には、縦割り型で部門間の交流が少なく、新しいことを提案しても、上司に却下されてしまう組織が多いでしょう。
たまに耳にする、GoogleやFacebookなどの「20%ルール」は、スリーエムの「15%カルチャー」を真似たもので、人事的に「自由に活動する時間を、業務時間の20%、強権的に作り出す仕組み」と言えます。
組織のカルチャーは急激には変わらないですし、社員にそもそも新しいことを提案するようなマインドがなければ、長続きもしません。
だからこそのルールや人事制度で、取り組む理由を無理やり作るわけですが、強制的な施策は痛みを伴うでしょう。
私も支援しているので、理解できるのですが、最近はアクセラレータープログラムによるスタートアップへギブを通じて、起業家マインドを自社内で育むことを取り組まれている企業も増えています。
私の前職では、たしかにいい意味で上司は新しいことをやる際には理解があり、部門を超えて相談もできました。
また、人事評価の中にはイノベーションという項目がありましたし、失敗はマイナス評価になりません。
そして、KPI的にも、新製品や新サービスの売上が全体の比率の中で、常にX%締めていないといけない、しかも粗利20%以上、というイノベーションを生み出すための仕組みもありました。
しかし、重要なのは、別にイノベーションを目的にしているというよりか(誰も、イノベーションしよう!とは言わない会社でした。)は、社員がCustomerFirstかつ自分のやりたいことを許す文化にあったように思えます。
組織設計を考える上では、狙うのも大事ですが、結果としてのイノベーション、という考えを持って、最終的にカルチャーが構築されるように人事を理解することも重要なのでしょう。
イノベーションの壁になる「優秀な管理職」
企業は組織ですので、現場の社員、それをまとめる管理職、組織としての部門など、階層型になっているケースが多いでしょう。
その中での管理職やマネージャーの役割も、市場選択に大きく影響します。
多くの会社では、マネージャーは「戦略やプロジェクトや新しいことに対する承認・否認」をしますよね。
マネージャーの評価も、これらのプロジェクトの成否関わるので、市場が既にあって、収益性が高い領域を選んでしまいがちなんですよね。
失敗を許容できない組織では、マネージャーが冒険して、下位市場にリソースを投入できないんです。
しかも、優秀な人材、特に自分で考え、組織・顧客のために行動できる人材が多い会社も、市場がまだない破壊的なイノベーションを阻害しがちです。
先述のシーゲートのマーケティング担当者がいい例でしょう。
上層部が一見、市場がなく、無意味な戦略を打ち立てるように思われれば、自主的な社員はそれを無視する可能性もあるからです。
イエスマンは優秀な会社には少ないので、このような結果が起こってしまいます。
プロセスと価値基準(自社の部門)を分けた「HPのプリンター」
本書のしびれる一節として、HP(ヒューレット・パッカード)のレーザージェットプリンターとインクジェットプリンターの話があります。
当時はレーザージェットプリンターの方が性能が良いものではあったのですが、インクジェットプリンターが性能が改善されると、本体価格も安く、破壊的な製品になる可能性が高かったのです。
ヒューレット・パッカードは、これら二種類のプリンターを別の部署で開発させ、両者を競争させました。
これは、自社で今顧客に評価され、売れる持続的な技術だけを求めた結果、破壊的技術に駆逐されるのを避ける施策です。
どちらか一つの事業は確実に自殺的に消滅してしまうのですが、他社の破壊的技術に全て食い尽くされるよりはマシですよね。
結果的に自社の事業が衰退することを見据えて、あえて既存事業に対する自殺的な行為を行う、なかなかできませんよね。
部門を分けて判断基準をわける、破壊的イノベーションを逃さないための経営組織のあり方です。
イノベーションを明示知へ。
クレイトン・クリステンセンは、「イノベーションのジレンマ」で、「企業が優秀であるがゆえに、イノベーションを掴みづらい」という、一見すると荒唐無稽な言葉を残しました。
しかし、「イノベーション」を起こせるかどうかは、判断軸の違いであり、そこまで複雑なものではないのです。
「イノベーション」というと、何か難しいイメージや、天才にしか許されないイメージを持つ方もおられるでしょう。
また、技術革新というイメージや、新しいものを創造するというイメージを持つ方もいるかも知れません。
しかし、イノベーションはヨーゼフ・シュンペーターいわく、「新結合」ですし、クリステンセンいわく、「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考」です。
つまり、(既存・新しいもの)×(既存・新しいもの)を結びつけるだけです。
誤解を恐れずいえば、「謎掛け」なんかも、イノベーション【「in-:内部へ、novare:新しくする】です。
「イノベーションのジレンマ」は、「イノベーション」という一見難しそうなものが、なぜ経済における企業活動で難しいのかを教えてくれます。
そして、それを通じて、「イノベーション」の難しさが、実は組織の問題であったり、慣習や人間の考え方の問題であることを明らかにします。
「イノベーション」の難しさそれ自体はあるかもしれませんが、我々は過度に「イノベーション」を神格化しなくても良いのです。
2020年代の日本の経済活動においては、イノベーションを当たり前に、創造が当たり前になる、即ち色々な組織体が協力して難局を打破できる時代にしていきたいものです。
また、自社の技術が持続的技術なのか、そして破壊的技術は何なのか、実務的に理解することの重要性も本書は警告します。
顧客に常に価値を提供し続け、破壊的技術にも理解を示し、顧客に成功を提供し続けましょう。
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