【ソーシャルビジネス】海外エネルギースタートアップのイノベーション【ビジネスモデル】
こんにちは、外資系セールスから転職→現在はベンチャー企業にて起業家を支援している冨田到(@ItaruTomita9779)です。
社会問題を解決するソーシャルビジネスのビジネスモデル紹介、前回は「Global Mobility Service」でした。
今回は、特定領域の産業で社会性の高いイノベーション事例を勉強してみたので、皆さんに共有できればと思います。
具体的に言うと、エネルギー産業分野の海外の事例とソーシャルビジネスのビジネスモデルや技術を調べてみました。
これから脱炭素化や電気自動車、再生可能エネルギーの時代がやってくる産業なので、変化が避けられず、ぜひ勉強しておきたい分野ですね。
気候変動と石油メジャーの動向
まず、昨今の気候変動のトレンドの中で、海外の石油メジャーの動向はどうかというところを振り返ってみてみましょう
石油メジャーというと、有名なところではBP、ロイヤル・ダッチ・シェル、エクソンモービルが挙げられるでしょうか。
出典:https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2017html/1-3-3.html
ちなみに、上記のプレイヤーは基本的には、ESG投資や低炭素社会、EVの普及予測があるため、石油関連事業からのダイインベストメントを実施中です。
つまりは、LNG(液化天然ガス)や太陽光・バイオ・風力などの再生エネルギーへの投資を世界中で増やしています。
BPは、2020年2月には「自社の排出する温室効果ガスを2050年にゼロにする」という目標を掲げていたりもしますね。
しかも、コロナウイルスの影響で、製造業、消費、旅行業などが打撃を被っており、石油価格はマイナスまでなってしまいまして、石油あまりの現状です。
石油メジャーのイノベーション活動
このように変化が必要な状況に来ている石油メジャーは、どのようにイノベーション活動を行っているのでしょうか。
これについて、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)と、アクセラレータープログラムから、いくつか抜粋して見てみましょう。
今後の動向を見るために、ソーシャルビジネスも絡めつつ、まずは石油産業で必要とされているイノベーションも包括的に見てみます。
CVC:RDSの「Shell Ventures」
今回はRDSのShell Venturesから見ていきましょう。
Shell Venturesは、1996年に石油およびガス業界で最初の企業ベンチャーファンドの1つとして設立されたそうです。
投資ドメインは、「oil and gas, renewable energy and cleantech(環境負荷の少ない技術), new fuels for transport, smart mobility and digital.」となっており、そこまで特異でもないですね。
投資だけではなく、資本提携を通じたPoCや社会実装にも力を入れているようです。
ポートフォリオとしては、グローバルカンパニーなだけあって、多様な地域に投資をされています。
(引用:https://www.shell.com/promos/energy-and-innovation/our-global-portfolio/_jcr_content.stream/1584114595379/d4a9f9b4c820d01d7ab969231f431e63fbf7699b/shell-ventures-portfolio-worldmap-march-spiffy.pdf)
再生可能エネルギー関係
(引用:https://www.shell.com/energy-and-innovation/new-energies/shell-ventures/portfolio.html)
次に実際の投資先を見てみましょう。こちらは、再生可能エネルギーについてです。
途上国の未開拓電力市場を狙っていたり、スマートグリッドを使って電力の効率化を図るスタートアップが多い印象です。
Auto Grid
Auto Gridは分散型エネルギー源(DER)をリアルタイムかつ大規模に管理することによって、クリーンかつ適正価格で信頼性の高いエネルギーを提供しています。
再生可能エネルギーを統合するAutoGrid Flex®の仮想発電所(VPP)機能によって、エネルギーの有効活用を実現をめざしており、日本法人もあります。
d.light
d.lightは、70か国以上にソーラーランタン製品を含む中小規模のソーラーホームエネルギーシステムを提供しており、1億人の人々に貢献実績があります。
ソーラーエネルギーをためておき、非常にシンプルな構造で明かりを提供するイメージですね。
代表的なBOPビジネスの一つです。
オイル・ガス関係
(引用:https://www.shell.com/energy-and-innovation/new-energies/shell-ventures/portfolio.html)
次の投資先は、オイル・ガス関係をいくつかピックアップしてみます。
石油生産を助けるようなプロダクトやサービス、検査や探査系のITシステムも目立ちます。
Airborne
Airborneは、完全接着・軽量・上部・耐腐食性の熱可塑性複合パイプメーカーだそうで、海底および生産設備にて需要があるみたいです。
また、関連部門では、宇宙、航空宇宙、その他の産業向けのハイエンド製品も手掛けており、厳しい環境下での開拓に、これからも一役買いそうな企業です。
Osprey Informatics
Osprey Informaticsは、産業用のクラウドベースの情報処理技術の高い視覚監視ソリューションを提供している会社です。
具体的には、安全保障の観点から、スタッフのいないリモートサイトでのアクティビティを監視して警告したり、盗難や破壊行為の防止したり、水資源を監視で汚染を防止したりできます。
燃料・モビリティ関係
(引用:https://www.shell.com/energy-and-innovation/new-energies/shell-ventures/portfolio.html)
最後は燃料・モビリティのポートフォリオを見てみましょう。
意外と電気自動車系は1つのみで、自動運転や自動車補修サービス、ロジ・配送系を助けるサービスが多いですね。
Spiffy
Spiffyは、アプリからボタンを押すだけで、自宅や職場での次の洗車、細部、オイル交換の予定を立てることができるサービスです。
洗濯、ディテール、オイル交換、タイヤの取り付けなど、動画を見ても非常にきれいな仕上げをしてくれて、しかも洗車の水が少なく、環境的にも優しいようです。
また、SpiffyのFleet Management as a Service™ソリューションを使用して、メンテナンスライフサイクル全体を管理できるそうです。
Sense Photonics
Sense Photonicsは、自動運転車、産業機器、その他のアプリケーション向けの次世代のLiDARおよび3Dセンサーソリューションを構築するサービスです。
近赤外線カメラのような強度データもキャプチャし、3Dデータと空間的および時間的に相関する単色画像を生成できるようにし、ディープラーニングも可能にしていきます。
こちらのLiDARの凄さは、明るい日光の下でも暗闇の中でもうまく機能することです。
自動運転車が大量生産されるようになった時に、市場を取りに行く準備をされているようですね。
CVC:BPの「BP Ventures」
(引用:https://www.bp.com/en/global/bp-ventures/our-portfolio.html)
BPも、CVCをやっていますが、数が多くなるので、おまけ的に調べてみます。
ポートフォリオは、先程の画像のとおりですが、上流(従来型石油・ガスやシェールガスの採掘・輸送)と、下流(原油・ガソリン・ディーゼル・灯油・航空機用燃料・船舶用重油・潤滑油・オイルサンドの精製)と、代替エネルギーを主軸にしています。
そして、新しいエネルギービジネスを育てることを目的に5つのエリアに分けて投資されています。
- 先進モビリティ
- 電源ストレージ
- 炭素管理
- バイオおよび低炭素製品
- デジタルトランスフォーメーション
BP Ventures is set up to grow new energy businesses in the upstream, downstream, alternative energy and in five areas: Advanced mobility; Power and storage; Carbon management; Bio and low carbon products; Digital transformation
実績としては、40社以上の企業に5億ドル以上を投資しているようです。
We have invested over $500 million dollars in more than 40 companies with technologies and innovations that will materially impact BP and global energy systems.
自社の石油事業を否定するような代替エネルギーに加えて、気候変動対策にもなるカーボン・オフセットなどにも投資されているのは興味深いです。
例えば、CARBONFREE CHEMICALSは「温室効果ガス(GHG)を、PVCパイプとガラスの製造、牛の飼料、鋼の酸洗、および石油・ガス産業向けの製品に変換」出来る技術を持っています。
また、Finite Carbonは、「森林土地所有者とCo2生成をオフセットしたい企業をつなぎ、森林地主を評価、森林オフセットプロジェクトの資金調達と開発サービス提供する」ことができます。
他にも、EV系では自動充電スポット・システムを提供する会社もあったり、主軸の石油の次を見据えた投資をされている印象ですね。
アクセラレーター:RDSの「Shell GameChanger」
(引用:https://www.shell.com/energy-and-innovation/innovating-together/shell-gamechanger.html)
次にCVCと一緒に語られることが多い、コーポレートアクセラレーター(大企業とスタートアップの連携・エコシステム形成)を見ていきましょう。
アクセラレーターについて、詳しく知りたい方は下記をご参照下さい。
ここでも、ソーシャルビジネスに縛られず、石油関係の事例見てみます
Shell GameChangerは、エネルギー業界に関連する課題に取り組む初期段階のテクノロジーソリューションを持っているスタートアップとの協力を目指しているそうです。
アクセラレーターの方向性
こちらの求めるソリューションに書いてあるとおり、気候変動やダイナミックなエネルギービジネスに関連することから、地球環境を観測するAI技術を求めているようです。
また、PoCやMVP以上に進んでいる企業はスコープ外ということで、シードよりなアクセラレーターにここ最近は特化しているようですね。
アクセラレーター採択企業について
(引用:https://www.shell.com/energy-and-innovation/innovating-together/shell-gamechanger/portfolio.html)
同様に、Shell GameChangerはシードファンド、プロのコーチング、および市場へのアクセスを提供しており、海外の一般的なコーポレートアクセラレーターですね。
アクセラレーターでも出資をしており、CVCとの違いは主幹企業からの分離によるスピーディかつ独立の意思決定、また長期的かつなソーシングを可能とする点です。
アクセラレーターは短期間に出資前からスタートアップのソーシングを可能にし、協業検討スクリーニング効果を高める形ですね。
例えば、Teia LabsというAIテクノロジーの会社は、アクセラレーターでは、油の深部抽出のプロセスに役立つ新しいAIアルゴリズムと戦略を作成しています。
TORNGATSという材料・材質検査の会社では、アクセラレーターが関係あるかはわかりませんが、石油関係のパイプラインの超音波調査などの事業も作っていますね。
個社ごとに違っていいと思いますが、自社で事業をしっかり作る、そしてアクセラレーターでマイナー投資する、というパターンでしょうか。
また、戦略的にM&Aしちゃうものを見据えながら、財務リターンも狙いつつ、長期投資をしやすいCVCも使う、目的によって切り分けて使い分けるといった感じかもしれないですね。
石油メジャーのオープンイノベーションの必要性
以上、RDSについて、見てみました。BPもアクセラレーターをやっているので、こちらご参照下さい。
石油産業はビジネスの規模が大きすぎるがゆえに、自分たちだけで変革するには、社内からの抵抗はものすごいものだと想定できます。
このあたりの既存事業部のイノベーションの抵抗については、下記の「両利きの経営」も参考になるかと思います。石油産業が変わりにく理由も理解できますね。
であるからこそ、例えばRDSのようにアクセラレーターのイノベーションを外圧的に90年だから取り組んでいる姿勢には、日本も周回遅れではありますが、学べるものが多いかと思います。
エネルギー産業のスタートアップ
次に、世界のエネルギー産業に関係するスタートアップをぜひ見ていきましょう。
いくつか話題のニュースやスタートアップをリストアップしてみましょう。
ビル・ゲイツさんがジェフ・ベゾスやマーク・ザッカーバーグなど、世界の著名的な起業家を呼びかけて作った「Breakthrough Energy Ventures(BEV)」のポートフォリオから見てみましょう。
BEVは再生可能エネルギーにおいて、技術開発に投資する10億米ドルのVCファンドになります。
Fervo Energy
米国を拠点とするFervo Energyは、地熱発電の大幅なコスト削減を可能にします。
地熱分野では、探査リスクと不十分な坑井生産性、コストの課題があるそうです。
その解決のためにも、地中熱エネルギーの潜在能力を引き出すためにも、水平掘削など、他の分野の技術を取り入れているそうで、費用対効果の高いソリューションを提供するそうです。
ここをクリアにする同社の技術で、大気条件や時刻に依存する風力や太陽光とは異なり、一定の電力源を提供できるようになるかもしれないですね。
環境負荷としても、魅力的な低炭素エネルギーの代替品です。
Zero Mass Water
米国のアリゾナ州を拠点とするZero Mass Waterは、「ウォーター・アズ・ア・サービス」として飲料水を無制限の資源にする技術を開発しています。
同社が提供する「Source Hydropanel」は、完全に乾燥している空気であっても、空気とソーラーパネルと吸湿性素材を用いて、水分子から水を抽出するという驚きの技術を持っています。
CES2019でも出店し、話題になったスタートアップで、家庭や学校やビルの屋上へサービスを提供し2020年の夏からも販売するそうです。
新しい経営学での分析
課題としては途上国の干ばつ・インフラ・環境問題もそうですが、アメリカなどの先進国でも有毒物質の検出など安全な飲料水が飲めない問題があり、それを解決できるというわけです。
新しい経営学に基づいて、簡単にビジネスモデルを考察してみました。
・浄水施設 ・飲料メーカー |
・Zero Mass Water | |
ターゲット | ・一定で安全な水を飲める動植物全般 ・浄水よりも上質な水を飲みたい人々 |
・途上国の水インフラがない人々 ・先進国でも安全な水を飲めない世帯 |
バリュー | ・生命維持に必須な水の供給 ・場所によっては飲める、色々な用途に使える汎用性の高さ ・安心感 |
・生命維持に必須な水の供給 ・水の浄化、淡水化施設に頼らず、場所や配達に困らずに供給が可能 ・水インフラの劣化の補修コスト軽減 ・プラスチックの減少による環境負荷の軽減 |
ケイパビリティ | ・インフラシステム ・自然環境の利用 |
・Zero Mass Waterの独自の技術 ・アメリカ、オーストラリア、UAEなどでの35箇所以上の実証 兼 生産拠点 ・各国の水質基準のクリア |
収益モデル | ・水道代の徴収 ・各販売店でのボトル販売収益 |
・Water Purchase Agreement形式(定額で生産された水を飲む、パネル2つで5,000ドルで1日4~10リットル) ・Source Field形式(生産設備ごと水の権利を買う) |
こうやって比較してみると、今までの常識を打ち破るような再生可能エネルギー=太陽光を利用したインフラシステムです。
もちろん、設置にかかる資金や場所の問題はあると思いますが、日本以外の国での水不足の問題は非常に深刻です。
また、日本もバーチャルウォーターといって、工業用生産に水を大量に使っており、それが安定的に使えるか、将来どうなるかはわかりませんので、注目のスタートアップですね。
エネルギー産業のイノベーションは人類的課題
さて、以上の通り、石油メジャーの動向から、最近話題のスタートアップまで、色々な企業を見てみました。
ソーシャルビジネス的に、エネルギーを活用できる分野もあれば、先進国の人間も含む、今後の世界的な課題にも紐づくため、日本であっても、今後は他人事ではない未来も来るかもしれないですね。
また、日本でもTechCrunchやBRIDGEで最近は下記のようなニュースもあったりするので、もしよろしければ気になるものを見てみて下さい。
ぜひ、エネルギー分野におけるイノベーションを学んで、投資・ソーシャルビジネス・転職・アセット提供・技術供与・ボランティアなど、自分から協力できることを考える切っ掛けにしてみて下さい。
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