【書評】「ポストM&A戦略」で学ぶ、イノベーションの為の連携戦略【要約・感想】

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【書評】「ポストM&A戦略」で学ぶ、イノベーションの為の連携戦略【要約・感想】

こんにちは、外資系セールスから転職→現在はベンチャー企業にて起業家を支援している冨田到(@ItaruTomita9779)です。

スタートアップと大企業とのオープンイノベーションにおいて、協業などに慣れてきた会社においては、長期的な成功のためのM&A戦略および統合後の企業価値向上戦略が重要になります。

私が所属する会社でも、オープンイノベーションを支援していますが、まだまだ会社によってはCVCの実装も道半ば、M&Aも意思決定が難しい会社が多いのが実情です。

今回は、M&A戦略の基本が理解できる「ポストM&A成功戦略について、大企業とスタートアップとの協業という文脈で、書評・要約していこうと思います。

実務にはあまり向いていませんが、外せない勘所を教えてくれる本になります。

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内容

M&Aの「成立」はゴールではない。「成立」を「成功」へと導く方法論とは?J.フロントリテイリング(大丸・松坂屋)、JFE、キリン・協和発酵、小田急、三菱ケミカルなどの事例多数。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

松江/英夫
デロイトトウシュトーマツのメンバーファームであるトーマツコンサルティング株式会社パートナー兼取締役。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。経営戦略・組織領域の専門部隊(Organization&Strategy)を管掌する立場でコンサルティング業務に従事。主に大企業を中心に戦略構築から組織改革の実行をテーマにしたプロジェクト案件、とりわけ近年は上場企業・大企業間の経営統合、国内・クロスボーダーM&A、グループ再編におけるポストM&A領域の経験を豊富に有する。同時に、独自の研究・発信活動を多数展開。主な著書に「経営統合戦略マネジメント」(日本能率協会マネジメントセンター)、「M&Aを成功に導く実践ガイド」(企業研究会、共著)他、日本能率協会、慶應丸の内シティーキャンパス、企業研究会、M&Aフォーラム等で講師を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

なぜ、M&A戦略が重要なのか(大企業・スタートアップ連携)

大企業とスタートアップのアライアンスを支援している中で、2つの観点からM&A戦略の重要性が理解できます。

  1. M&A戦略を見据えて、CVC・アクセラレーター・アライアンスなどのイノベーション活動に意味づけできるから。
  2. M&A戦略に備えて、PMI人材をイノベーション活動で育成することができるから。

まず一つ目の重要性は、大企業とスタートアップ双方が連携する際に、M&Aというオプションを見据えて活動することができると、よりお互いが長期的に価値向上し続けられる関係を模索できるからです。

大企業がスタートアップに近づくことは、彼らの新規事業や非連続な成長を狙っての学び直し戦略になります。また、スタートアップとしても大企業の有り余るリソースを活用して、市場拡大の足がかりにしていきたいものです。

大企業側としても、スタートアップとの連携において、ピッチコンテストを開いたり、ちょっとしたPoCをしたり、だけでは将来的には全く事業につながらないでしょう。

アクセラレーターをしても、シードラウンドで投資判断もしづらい組織体制の会社や、CVC機能もない会社も多い状況だからこそ、短期的な協業で終わってしまう、自社にビジネスへの反映ができないことの焦りはあるのかもしれません。

そのような、エコシステムの環境だからこそ、会社によってはまだまだ先の話かもしれませんが、強固に資本をつなぐM&Aだからこそできる、長期的にシナジーを効かせることの価値を再認識する必要があると思っています。そのための道の途中で、協業フェーズの位置付けを理解する必要があります。

そして、2つ目の重要性については、ポストM&A戦略のフローを理解することで、自社にポストM&Aの統合作業で重要な、PMI人材の育成状況を振り返ることができます。

M&Aにおいては、PMI(Post Merger Integration)のフェーズが入りますので、大手企業・スタートアップ双方にゼロイチだけではなく、イチジュウで事業を伸ばせる、異言語を橋渡しできる存在が不可欠になります。

ポストM&A戦略においては、後述する通り、戦略の目的設定と、主語を新会社にすることの重要性がありますので、いかにM&Aに前もって、大手とスタートアップの連携を支援するための人材を協業フェーズで育成するかを、戦略的に備える必要があるのです。

M&Aの失敗・成功を左右する統合戦略

M&Aでは、下図のように、買収までの戦略策定・企業間選定フェーズと、買収後の企業同士の統合作業であるPMIに大きく分かれます。

しかも、日本のM&Aの失敗あるあるとして、よく言われているのが、「買収までとPMIからで担当者が変わる、戦略と統合に齟齬が生じてしまう」、ことでM&Aのシナジーが上手く発揮できないという現象です。

このような問題はM&A一連作業の分業体制による問題もありますが、どのようなM&A戦略の設計が成否を分けるのでしょうか?また、具体的には、各フェーズでどのような失敗理由が存在するのでしょうか?

ポストM&AにおけるPMIが失敗する理由とは?

上図では、その二つのフェーズ(アプローチと実行段階)の失敗事例を分けています。そもそもの買収先の選定の話や、リーダーシップに関するもの、どちらも方向性の誤りなのでしょう。

自社の中期経営計画とそれを実践するための戦略乖離による選定ミスや、統合後の2社間の方向性合わせうまくいかなかったり、その結果M&Aもうまくいかないことが往々にしてあり、そもそものM&Aの難しさがあるのでしょう。

また、「不十分な情報収集」や「事業環境の変化」など、戦略の目的設計が曖昧だったケースにおいては、事業提携や買収がやることゴール、自己目的化してしまうこと、担当者が上から言われて実行しているだけ、などの上意下達システムに課題があることもあります。

経営者が他社を真似するような目的意識の低い経営をしてしまうと、その目的を担当者レベルが考えるしかなく、失敗するケースを私もアライアンス関係で見てきましたが、同じ轍を踏まないように気をつけねばならないと感じます。

それに関して、下記は、M&Aやジョイントベンチャー、事業提携などアライアンスに関する基礎を学ぶことができる本なので、ぜひアライアンスを学びなおしたい方にはおすすめです。ご参考ください。

M&Aの戦略と成功はどのように分けられるか?

また、M&Aの戦略設計を行う上で本書で役立つ図がありましたので、一緒に見ていきたいとおもいます。

上図はM&A行った結果、どのような価値向上の統合がありうるか、という図になります。

自社が営む事業に応じて、どのような顧客にサービスを提供しているのかが縦列で、それを実行するための人材・技術・生産設備などの機能が横列になります。

例えば、自社が不動産開発会社であれば、縦列については、持つ顧客としてのテナントや住居者、アセットの不動産、などになります。横列については、強みとしての不動産の専門知識や顧客の困りごとの理解、その土地ならではのリレーションなどになるかと思います。

これらを、例えばAIスタートアップのM&Aで活用するのであれは、サービスと資源の機能においては、あまりシナジーはありませんが、自社内にAIに関するポートフォリオの確立と、AIスタートアップにおいて不動産関係の顧客がいれば、そこを軸にコスト削減とサービス導入の展開ができるでしょう。

特に、昨今の流れとして、新規事業を大企業が作りたいというニーズがありますが、そこに対して、M&Aとまではいかなくても、資源の遠いスタートアップに出資しておくことは、ポートフォリオ拡大・ビジネスモデル開拓のために大切な戦略とも思えます。

出資でもしておかないと、短期的な協業はできても、長期的には大企業側で事業開発の意志を持っておかないと、事業開発は全くワークしないと思われます。

企業が持つ資源の掛け合わせをもとに、4類型を考慮しながらM&Aのシナジー戦略と実行計画を整理しましょう(理解と実行の難易度の差は理解しつつも)。

イノベーションを生み出すM&A戦略とは?

また、M&Aによるシナジーの出し方として、上図のようにレバレッジ、シンクロナイゼーション、イノベーション、プレゼンスがあります。

現在の顧客に対して、コストの削減や新たな価値の提供などのをしたい(シンクロ、レバレッジ、プレゼンス)のか、それとも自社の強みを生かして、新しい顧客を迎え入れたい(イノベーション)のか、どの方向性をもってM&Aするかで、適切な統合先が決まるとも言えます。

適切な統合先・買収先企業については、その会社が持っている資源種類の組み合わせで、生じる戦略の生み出しやすさの相関がありますので、どんなシナジーを生み出したいかの意思と合意形成がないことには、シナジーは始まりません。

合意形成に関して、本書で一貫して述べられているのが、M&Aを実行した後は、主語を新会社で語り、かつ新会社が貢献する顧客を見定めて、統合していく必要があるということです。

いつまでも統合前の会社を主語にしていると、どうしても両者のアセットを掛け算する発想とチームアップが出来ずに、M&Aしても統合されていない会社が完成してしまうのです。

また、ポストM&Aでは、統合直後からスピード感を持って、主語を新会社に、戦略・制度設計を顧客への価値貢献のために、していく会社が成功することも、一部データとして示されているのは一考の余地がありそうです。

下記は、PMI時における統合領域を示した図になりますが、戦略だけではなく、一つの会社としての文化や制度などのあり方が問われることがよくわかります。

なんのためのM&Aか、当たり前で難しいこの問いに対して、常に正当である行動を心がける必要があるのでしょう。やらされ仕事では務まらない難しく、大きい仕事がM&Aなのです。

イノベーションのためのM&A、一歩ずつ着実に

さて、先日、カンブリア宮殿で日本電産の永守会長のM&A戦略が放映されていました。不況はチャンス、企業価値の下がったタイミングでダイナミックなM&Aを仕掛ける永守会長のパワフルさに圧倒されました。

他方で、2020年の時代においては、水平統合や垂直統合型のM&Aだけではなく、”イノベーションのため”のビジネスモデル開拓型、ポートフォリオ拡大型のM&Aが必要になってくると、ベンチャー支援をしていて感じるものがあります。

これは経済成長が人口増大と比例関係では必ずしもない非線形の時代だからですよね。

冒頭にも述べたとおり、日本の大手・スタートアップ連携の状況は、まだまだその活動自体の目的と、実際の現場担当者の慣れや、既存事業部との連携を、失敗しながら学んでいるようなものかと思います。

オープンイノベーション活動において、新しい価値を会社が顧客に届けるために、すぐにM&Aとは言わずに、ポストM&Aの理想形を思い描きながら、アライアンス・CVC・アクセラレーターなどのイノベーション活動で学び直しをしていくのが良いのかと思っております。

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