【書評】「イノベーションの解」は、顧客の用事と会社資源の中にある【要約】

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【書評】「イノベーションの解」は、顧客の用事と会社資源の中にある【要約】

こんにちは、外資系セールスから転職→現在はベンチャー企業にて起業家を支援している冨田到(@ItaruTomita9779)です。

新規事業や社内起業家を支援している関係で、「どうやったら新規事業を生み出す仕組みを作れるのか」というお悩みごとをよく受けます。

今回はそれに関して、「組織がイノベーションを起こす」ための理論を考察した、クリステンセンの「イノベーションの解」を書評・要約していこうと思います。

社内で新規事業を見つけるための「アイデアの発見」、「選択の基準」を学んでみましょう。

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商品説明

   優良企業におけるイノベーションがはらむ落とし穴を実証し、衝撃を与えた名著『イノベーションのジレンマ』待望の続編。イノベーション論を深化させ、研究者らの間に一躍広まったクリステンセン教授の理論のさらなる展開を本書に見ることができる。   前作では破壊的な技術革新を受けて優位を脅かされる側の企業に置いていた視点を、今回はその技術革新で新事業を構築し、優位企業を打ち負かそうとする側に置いている。この「破壊される側ではなく破壊者となって」という立場が本書の特色である。そこでは技術革新にかかわる実務者にとって、より明快な行動指針が得られるだろう。実際に、どうすれば最強の競合企業を打ち負かせるのか、どのような製品を開発すべきか、もっとも発展性のある基盤となるのはどのような初期顧客か、製品の設計、生産、販売、流通のなかでどれを社内で行い、どれを外部に任せるべきか…というような、きわめて具体的な意思決定の「解」が提出されている。

「無消費への対抗」など、次々に展開される破壊的イノベーションの局面は興味深く、そこでのマネジャー個人の行動やモチベーションまでカバーする理論はマネジメントの視野を確実に広げてくれる。事例となる企業や市場は、IBM、ソニーなどの常連から「クイック・サービス型レストランチェーンのミルクシェーク」などまで多彩で読みごたえがある。日本企業に「破壊」される米国市場を取り上げてきた著者が言う、「日本の経済システムは構造的に新たな破壊的成長の波の出現を阻害している」という提起も示唆的だ。さらなる読解が期待できるテキストとして、また、イノベーションやマネジメントの指南書として必携である。(棚上 勉)

著者について

クレイトン・クリステンセン  ハーバード・ビジネス・スクール教授。ブリガムヤング大学経済学部を最優等で卒業後、オックスフォード大学で経済学修士、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。その後、ボストン・コンサルティング・グループにて、主に製品製造戦略に関するコンサルティングを行いながら、ホワイトハウス・フェローとしてエリザベス・ドール運輸長官を補佐。1984年、MITの教授らとともにセラミック・プロセス・システムズ・コーポレーションを起業し、社長、会長を歴任。
1992年、同社を退職し、HBSの博士課程に入学。わずか2年で卒業し、その博士論文は、最優秀学位論文賞、ウィリアム・アバナシー賞、ニューコメン賞、マッキンゼー賞のすべてを受賞する。その研究の集大成として発表された前著『イノベーションのジレンマ』は、経営書として異例の20万部を超える大ベストセラーとなった。

「イノベーションの解」とは

「イノベーションの解」は「イノベーションのジレンマ」の次回作であり、どうしたら、大きな組織がイノベーションを起こすことができるのか?ということを理論的に研究した本になります。

前作のイノベーションのジレンマの書評については、下記をご参考ください。

「イノベーションの解」では、大きい組織でのイノベーションを起こすために、それを阻害する要因を理解し、次に普通では理解出来ないは破壊的イノベーションを計測し、破壊的イノベーションを育て上げる方法論を示しています。

こちらの書評ではその中で気になった、下記のトピックについて、私の経験も交えて書評したいと思います。

  • イノベーションのアイデアを阻害する組織体制とは
  • 破壊的なイノベーションを評価する5つの質問
  • イノベーションのアイデアを顧客の用事=困りごとから理解する

イノベーションのアイデアと組織体制の関係性

さて、組織で新規事業を起こすときには、そもそも、新規事業のアイデアがないと始まりませんね。

「イノベーションの解」には、下記のような一節があります。

クインは、企業経営者が新事業を構築する際に取るべきステップとして、まず「千本の花を咲かせ」、そのなかで最も有望なものだけを栽培し、残りは枯らしてしまうことを提唱する。この見解からすれば、イノベーションを成功させる鍵は、栽培すべき適切な花を選ぶことにあり、その選択の判断は経験によって修正された、複雑な洞察や直観に頼らなければならない

枯らしてしまう、というのは会社の文化的には完全によろしくありませんが、とにかく数を揃える(千本の花を咲かせ)ことと、どの花に投資するのか?は非常に重要な考え方です。

新規事業を制度で行うケースの多くは、事務局と呼ばれる新規事業のアイデアを選び育てる部署と、実際にアイデアを持ってくる社内起業家がいます。

イノベーションの一番のKPIは、予測ができない以上、とにかく挑戦数になりますので、そこをモチベートする、そして育てた花を選ぶ選球眼も大事なのです。

イノベーションが予測不可能性について気になった方は、下記の「イノベーションの理由」の書評もご参考いただくのが良いかと思います。

他方で、そのアイデアを挑戦させるためにも、新規事業制度だけではなく、事業部クラスのマネージャー層の理解を得られないことも多いでしょうが、それに関して下記のような一文があります。

また企業の管理者開発計画では、有効な中間管理職を同じポストに長期間留めることはしない

例えば、日本の大企業では、マネージャーの配置転換を1~3年程度で行ったり、社長職でさえ3年程度で変わってしまうことがあり、足の長いビジネスだと自分の評価につながらないため、部下にやらせないようにするインセンティブが働くわけですね。

一部メーカーでは、事業部制を強固に敷いて、その中での職域(営業からマーケティングなど)の配置転換を行うことを意識するケースもありますが、これはイノベーションを審査するための専門性への理解を深め、長くその産業に貢献する意識も高めることができますね。

まずは、現場の社員のアイデアがそもそもあって、それがマネージャー・中間管理職に受け入れられる組織づくりが大事なのです。

破壊的なイノベーションを評価する5つの質問

そして、経営者が、提出されたビジネスアイデアが破壊的かどうかを判断するため、また市場形成の可能性を考えるための質問として、下記に答えられないといけないと、クリステンセンは言っています。

・これまで、金や道具、スキルがないという理由で、これを全く行わずにいたが、料金を支払って高い技能を持つ専門家にやってもらわなければならなかった人が大勢いるか?

・顧客はこの製品やサービスを利用するために、不便な場所にあるセンターに行かなければならないか?

自分が解決しようとしている顧客の困りごとが、本当にお金を払ってでも解決したいものなのか、という点をチェックするためのものですね。

普段はなんとなく気にもとめていない場合だと、破壊的とは言いづらく、販売するのにも努力がいるビジネスになる可能性が高いからこそ、上記の質問で苦労をしているかを聞くべきなのです。

他方で、無消費市場を開拓するケースでは、私はこの限りではないと思っています。

例えば、情緒的な価値に訴えかけるようなアート系やエンタメ系やエシカル系など、既存のビジネスに顧客も気づいていなかったような付加価値を付与する場合は、そもそも苦労も悩みもないわけですが、その良さに惹かれることがあるからです。

また、こちらの質問をクリアできたのであれば、次の質問として、ローエンド型破壊の可能性を検討する質問にも答えられないといけません。

・市場のローエンドには、価格が低ければ、性能面で劣る(が十分良い)製品でも喜んで購入する顧客がいるか?

・こうしたローエンドの「過保護にされた」顧客を勝ち取るために必要な低価格でも、魅力的な利益を得られるようなビジネスモデルを構築することができるか?

例えば、日本の家電器具のように、過剰な機能がつき、品質が無駄に高いために価格も高いものを使っている人には、アイリスオーヤマのようにコストは安く機能もシンプルなもののほうが受け入れられるということです。

他にも、スタートアップの初期のプロダクトは、一般的な顧客にとっては受け入れがたいほどに低レベルな製品なこともありますが、特定の困りごとを抱える顧客にとっては、それでも魅力的なプロダクトであることがあり、魅力的なマーケットを構築できる可能性があるのです。

また、そのようなローエンドなプロダクトでは、コストダウンのための間接費の削減と資産の高速回転、製造プロセスの改良が必要であり、スタートアップは特にテクノロジーの力と他分野とのイノベーションによる生産性向上で戦うのです。

最後の質問は、破壊的であることを、業界企業に問うことで、市場の優位性を確認する質問です。

このイノベーションは、業界の大手企業すべてにとって破壊的だろうか?もし一社もしくは複数の大手プレーヤーにとって持続的イノベーションである可能性があれば、その企業の勝算が高く、新規参入者の勝つ見込みはほとんどない。

本質的に業界の負や、その業界の大手企業たちが満たせていないローエンド・無消費を突いているかどうかを問われます。

上記の質問をすべてクリアできた事業は、破壊的である、ということですが、勘違いしてはいけないのが、これらは思い込みで答えるのではなく、顧客の困りごとや一次情報や事実から導き出すものであると感じます。

他方で、GAFAを創業された方々がこのようなスクリーニングをしていたのか、というと全くそうではないと思うので、組織単位で事業アイデアを評価するときの参考程度にするのが良いのではないでしょうか。

顧客の用事にフォーカスすることの難しさ

さて、上記は事業のスクリーニングの方法論の話にはなりましたが、本当に大切なのは、事業そのものですよね。

そこで、「イノベーションの解」では、”ソニーはなぜ、最近ではイノベーションを起こせていないのか?”という問いかけがあります。

それに対して、本書では、下記のようにMBA的な事業開発・市場分析がソニーに導入されたことの問題を指摘しています。

MBA出身者は、属性に基づく高度な定量的手法で市場を細分化し、市場の成長性を分析した。こうした手法は、既存市場の持続的改良の軌跡上で見捨てられていた機械を発掘するのには役立ったが、直観的な観察によって得られた洞察から何かを引き出すことはできなかった

MBA的な市場分析手法はいわゆるコーゼーションと言われており、ゼロイチの新規事業開発では、コーゼーションだけでは駄目で、エフェクチュエーションという考え方を組み合わせる必要があります。

後半の”直感的な観察によって得られた洞察”という部分がエフェクチュエーションに近いのですが、クリステンセンは、ここで顧客の用事に着目することと、言い換えています。

この「顧客の用事」は「ジョブ理論」としてクリステンセンから改めて出版されていますが、言い換えると、「顧客の困りごと」であり、顧客の困った状況そのものを詳細に観察し理解し洞察し、事業アイデアに繋げるのです。

さて、顧客の困った状況そのものに目を向けることは事業を作る上で非常に重要であり、誰でも行いそうなことですが、実際には大きい組織ではその行為を阻害するような評価プロセスになってしまっているのです。

大きい組織では、多くの人を納得させて予算をつけるために、市場を顧客の用事ではなく、属性でセグメンテーションして、顧客を理解しようとします。

そのほうがダイレクトに数字で表現できるので、そうなってしまうのですが、具体的には下記のような理由があります。

  1. 特定の用事に、的を絞ることは、それ以外の用事への機会損失として恐れられるから。
  2. 顧客の用事が現れない、データによる市場規模の定量分析の要求があるから。データのセグメントに用事は存在せず、属性のみが残る。
  3. 多くの小売チャネルが、既存の製品の特徴や属性に基づく収益構造を持っているので、破壊的な製品を扱ってくれない。なので既存の数字や属性で考えてしまう。
  4. 広告の経済学によって属性に絞ってしまう。マス広告を打つ際に、属性が絞られていると、そこをイメージした広告が打てるから。

上記のように、顧客の困りごとではなく、年代や性別などのデータセグメントの方が一見市場としては分かりやすいのですが、実はマーケティングのコミュニケーションとしては、顧客に対する勘違いが生じるのです。

2.に関して、キーエンスの事例は有名かと思いますが、セールスパーソンが顧客の困りごと単位で報告しまとめて、製品開発に活かしているそうです。

優秀な企業は顧客の困りごとをしっかり把握し、状況に応じて困りごとを訴求し、コミュニケーションを取る文化があります。

他にも、顧客が用事に直面したときに、思い出せるようなブランディングをするのも大事で、ロゴやブランド名で解決する顧客の用事を分ける手法をとる会社もあります。

また、更に大きい組織で厄介なのは、”市場規模の話が意思決定のプロセス”で強制的に存在するので、そこを意識した担当者がそこに合わせて顧客の困りごとを都合の良いデータに変換してしまうのです。

3.については、私の前職の外資系メーカーでは、チャネル戦略を工夫しており、破壊的な製品を扱ってくれるチャネルを優遇して担いでいました。

他方で、この担ぐことができるようなディストリビューション戦略を取るのは、ある程度プロダクトの優位性がないと難しいことはまた事実ですので、やはり顧客の用事を解決するプロダクトを作ることが肝要なのです。

会社の資源からイノベーションを起こすには

さて、以上の通り、大きい組織で破壊的な新規事業・イノベーションを生み出すことの難しさは、結局は「既存の組織の力学にアイデアが殺される」という点でしょう。

これは、前作のイノベーションのジレンマと同様に、結局は評価軸が破壊的なイノベーションに向いてないだけであり、そこを組織的に解決しないといけないということですね。

クリステンセンは、RPV理論(資源・プロセス・価値基準)を軸に下記のような問いかけも行います。

成長機会に取り組む組織の経営者は、まず、成功するために必要な人材やその他の支援があるかどうかを判断しなければならない。それから、次の2つの質問に答える必要がある。「組織で習慣的に用いられているプロセスは、この新しい課題にふさわしいのか?」「組織の価値基準は、この実行計画に必要な優先順位を与えるのか?」。

イノベーションを成功させることが一見困難で予測不可能であるように思われる主たる理由は、企業がしばしば有能ではあるが、安定企業特有の問題に取り組むために精緻化されたマネジメント・スキルを備えた人材を活用するからだ。

つまり、破壊的なイノベーションを生み出そう(価値基準)、とするのであれば、それに適したプロセス(問題への取り組み方)で、適した資源(人材など)を活用しなければならないのです。

これは多くの優秀な大企業が今も苦しんでいる通り、理解してても無理で、例えば、新規事業を起こす際も、既存事業でのエリートを選んで新規事業させてしまう、という間違いを犯すのです。

破壊的なイノベーションの本質は、会社の既存の価値基準に準じたプロセスをまだ通っていない、資源(人材・設備・製品など)であり、その資源にこそ、破壊的事業の種があるのです。

既存事業のプロセスに組み込まれてないからこそ、資源をうまく活かせば、破壊的なイノベーションも生まれるはずなのです。

会社というものは生き物で、社員は上司から、上司は役員から、仕事の仕方を学んでいきます。

つまり、役員や中間管理職の価値基準に応じて、現場の社員は採用されない・提案しても通らない新規事業やビジネスを学習してしまうのです。

学習の硬直化が挑戦できない組織を作ってしまうのだということを、自分自身にも問いかけなければならないのではないでしょうか。

下記は、「イノベーションの解」の要約になります。ぜひ備忘録的にご活用ください。

1.実績ある競合企業に魅力的に映るような顧客や市場をターゲットとする戦略は、絶対に通してはならない。

2.部下が既に優れた商品を使っている顧客を標的にしようとしたら、無消費に対抗する方法を探し出すまで、やり直すように命じること。

3.無消費者がいない場合は、ローエンド型破壊戦略の可能性を、部下に検討させる。

4.プロジェクトリーダーが「顧客にせめて……してもらえたら」と言う言い方をしたら、会話を打ち切ろう。

5.部下の製品計画やマーケティング計画が社内の組織規模に沿って切り取られた市場分野を標的としていれば、あるいは標的市場が容易に入手可能なデータ(製品タイプ、価格帯、人口学的分類によってなど)によって分類されていたら、やり直しを命じ、顧客が片付けようとしている用事に即した方法で、市場を分類させること。

6.もし部下の製品改良計画が、競争基盤が変であることを前提としていれば——つまり過去に大きな利益をもたらしたタイプの改良が、この先も同じ利益を得ることを仮定していれば——ローエンドに目を向けよう。

7.破壊的製品やサービスがまだ十分でない状態で、部下が業界標準やそれに付随する外部委託や提携の話に心を奪われているなら、危険信号を出そう。

8.新事業は社の強・コンピタンスに適合するから成功する、と部下が請負ったら、次の3つの質問に対する答えを求めよう。

・成功するための資質が資源があるか?

・わが社のプロセス、つまり、これまで培われてきた、この事業を成功するために連携する方法は、新事業を成功させるために必要なことを行うのに役立つか?

・わが社の価値基準、つまり社員が優先順位付けをする際に用いる判断基準は、時間、資金、人材をめぐって競争している他の実行計画よりも、この実行計画を必要なだけ優先させるか?

9.今の3つの質問を、新事業のチャネルを構成する、全存在にも問うこと。

10.残念ながら、これまでは信頼の厚かったマネージャーが、頼りにできなくなる場合がある。

11.新事業立ち上げ後の数年間は、開発チームに、製品、顧客、用途における最良の戦略が見つかったと確信させてはいけない。

12.利益を気短に急かすこと。新事業が成長して利益を生むようになるまでの長い間、多額の損失を覚悟してほしい、と誰かに言われたら、それは破壊的技術を実績ある市場に押し込もうとする計画だ。

13.成長を気長に待ってるように、会社の成長を持続させること。社会では、特に無消費に対抗する場合には、離陸するまでの助走路が極めて長い。

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