【書評】ブリッツスケーリングで学ぶビジネス”ゲーム”ルール攻略論【要約・感想】
こんにちは、外資系セールスから転職→現在はベンチャー企業にて起業家を支援している冨田到(@ItaruTomita9779)です。
スタートアップ・大企業の新規事業をサポートしていると、急激に成長をさせるためのビジネスモデルや施策が求められることがあります。
今回は、ビジネスを大きく成長させるための方法論である「ブリッツスケーリング」を書評・要約し、スケーラビリティの高いビジネスモデルとその施策を考察します。
ビジネスだけではなく、拡大を目指す組織的に行う活動全てにおいて、また、その活動が支配するルールをいかに攻略・ハックするかという点において、参考になる本にですので、ぜひ興味があれば本書を読んでいただければと思います。
説明
ブリッツスケーリングはなぜ重要なのか?
そもそも論として、ブリッツスケーリングの重要性を考えてみたいと思うのですが、前提合わせとして、ブリッツスケーリングとは何かを考えてみましょう。
ブリッツスケーリングとは、ブリッツが電撃を意味するように、稲光のようにビジネスを短期間で成長させることです。
特にスタートアップの領域で、必要な戦略として紹介されており、会社のステージとして、シード期・数人規模であれば市場の独占を優先したり、アーリー期・数十人規模であれば効率性を高めたり、ミドルレイター期・1万人以上の規模であれば新しい事業に集中したり、自社の状況に応じて、指数関数的に市場を勝ち取るための戦略に、一直線に資源を最大限投下する戦略なのです。
本書の事例では、海外でヨーロッパでAirbnbのビジネスモデルを真似した会社がいたそうですが、買収を持ちかけられても、Airbnbはそれに負けじと市場拡大を続けたり、Paypalにおいては、顧客からの一部の苦情が増加してもあえてカスタマーサクセスに資源を割かずにシステム改善・市場開拓に勤めたそうです。
「崖から飛び降りながら、空中で飛行機を組み立てる」という言葉のように、カオスの中でも、進むべき方向を決定し、その他の障害を振り切るような戦略なのです。
つまり、社会の負を大きく解決する、貢献する市場を広げたいスタートアップや、既存のアセットや期待値が大きすぎる大企業の新規事業においては、このようなスケーラビリティ(市場拡大性)が求められるわけで、ブリッツスケーリングという行動・考え方が重要になります。
他方で、中小企業やスモールビジネスなどにおいては、無理にブリッツスケーリングを行おうとしてしまうと、現在の顧客への価値貢献が壊れたり、雇用の安定性を失ったりすることがあるので、必ずしもブリッツスケーリングが絶対正義ではありません。
なので、もし起業をされる方においては、自分のビジネスをどこまで伸ばしたいのか、届けたいのか、という観点を持ちつつ、ブリッツスケーリングを活用するのであれば、どう活用するかという視点を持っておくことは、(実現可能性を除けば)非常に重要なのです。
また、ブリッツスケーリングには、ビジネスモデル・戦略・経営のイノベーションがその実現のために重要になりますので、起業初期フェーズにおいても、実務面に活用できそうな部分を考察してみたいと思います。
そして、ブリッツスケーリングは、ビジネス・スタートアップの文脈で書かれてはいますが、現代のビジネス環境・ルールにおいて、どうその壁を壊すか、限界を超えるか、ということが学べますので、そのメソッドがどう自分に応用できるかも類推いただければと思います。
ブリッツスケーリングの成立要件
ブリッツスケーリングにおいては、Airbnbが独自のイノベーティブなC2Cの宿泊マッチングビジネスモデルを組み立てたように、ビジネスモデルのイノベーションが大事になります。
そして、スタートアップのブリッツスケーリングのビジネスモデルに大事なことは、下記の順だと言われています。
- ディストリビューション
- プロダクト
- 収益モデル
- 運用・オペレーション
- 競合
ディストリビューションの重要性については、「独自のビジネスモデルを組み立てるだけでは足りず、そのビジネスモデルを顧客に届けられないと意味がない」、という観点から本書では強く説かれています。
というのも、そもそも製品が届かないのであれば、資金調達のためにプロダクトを磨くことや、収益モデルを組み立てることは、結果が伴わないので意味が薄くなってしまいます。
リンクトインの事例では、出資元からどのようにマネタイズするのか、と聞かれた際に、収益モデルに無駄な時間を使わずに、その時点でのでっち上げの収益モデルを提示し、調達を成功させているそうです。
嘘をつけ、ということではなく、その時点でわからないことに時間を使ってもしょうがないということですね。
なので、まずはディストリビューションの観点から、Facebookのような既存のネットワークの活用や、他社のアプリケーションのAPI連携を活かしたり、ユーザーの口コミや登録時の連絡先リストの接続のようなバイラル性で流通させることを検討することが大事ということです。
製品の観点で言えば、それが届けられるのであれば、次にブリッツスケーリングの成長を阻む要因として、いわゆるPMF(ProductMarketFit:市場に製品が受け入れられる状態)をしてないことは一番注意すべき問題になります。
スタートアップの事業創造については、線形にステップ論的に進むことはないのですが、顧客は誰で(CPF)、解決策何で(PSF)、そのプロダクト・製品が市場に受け入れられるか(PMF)、というそもそもの顧客のニーズの存在が発見できずに、スケールしない事例は、事業難易度的にはどうしても多いのです。
市場にとって価値のない製品であれば、どれだけマーケティング予算を投下しても、バケツの底に穴が空いたように、顧客が獲得できないので、スケールすることは不可能なんですね。これも、言うは易く行うは難し、です。
そして、製品構築の際には、利用者が増えることで今のサービスから乗り換えを困難にしてしまう、いわゆるネットワーク効果を用いるべきだ、ということも言われています。
例えば、LINEをみんなが使ってたら、使わざるを得ないということのような状況を作り出すのです。
他方で他に魅力的なサービスが出たら、mixiの事例のようにネットワーク効果が逆流し一気に瓦解することもあるので、絶対視は出来ません。
また、収益モデルの観点で言えば、収益の再投資における投資効率や成長スピードを高めるために、利益率の高いビジネスを行うこともブリッツスケーリングの要件として重要です。
そもそも、利益率が高くても低くても、顧客はサービスで買うので、利益率が高いことに越したことはないので、例えばデジタルコンテンツのような原価率や固定費の極端に低い、できるだけ利益率の高いビジネスを心がけたいものです。
そして、収益モデルの安定したPMFをしたとしても、オペレーションの拡張性の限界が問題になることもあります。
例えば、労働集約的で優秀な人材の採用が大変である状態や、人材の外注もできない状態では、オペレーションの拡張ができないことで、ブリッツスケーリングの機会を失うことになります。
さらに、そもそも拡張性に障害が出るようなインフラストラクチャー(ウェブサーバーや物流網)などは構築の際に気を付けるべきです。
簡単なハードウェアの量産では中国に頼ることもできるかもしれませんが、テスラのように複雑なものは生産速度が需要に追いつかないこともあるようです。
あらためて、上記の5つのポイントは、ビジネス以外でも、政治や非営利活動でも、冒頭述べた通り、ブリッツスケーリングの要件は応用できる本質的な考え方です。
例えば、政治活動においても、あなたの活動は届けたい人にバイラル的に圧倒的に届ける仕組みがあるのか、届けるターゲットはどのような課題を持つのか理解できているか、さらにその届けたいことに必要な経費のキャッシュエンジンは効率良く回せるかなど、応用が効かせられる部分が大いにあります。
ブリッツスケーリングを可能にしたビジネスモデル
また、現代のビジネスの成功の根本原則・ルールとしては、利便性を高めるitの活用、効率を高める自動化、個々の顧客への適応(ToCならパーソナライズに近い)、他人に知られてない重要な真実を使った反逆的思考を大事にしなければならないようです。
そのようなビジネスモデルの事例として、難易度は高いが高い成長性のあるような、下記のビジネスモデルをブリッツスケーリングでは紹介をしています。
- ソフトウェア(アップデートしやすい、利益率高い)
- プラットフォーム(国やOSなどのように、手数料を取れる)
- フリーミアム(口コミなどのバイラル性やユーザーが多ければ広告料が見込める)
- マーケットプレイス(売買人数が多ければ、監視・ネットワーク効果で適正価格での取引が行われ公平感がある。手数料。)
- サブスクリプション(SaaSなどはライセンスを少ない顧客にも販売できる。売上予測と収益安定。)
- デジタルグッズ販売(100%粗利益)
- フィード(消費者の好みに応じたコンテンツ・広告を出せる)
ブリッツスケーリングの要件である、ウェブを活用することでディストリビューションのしやすさを担保したり、SaaSのような改善しやすいITシステムをプロダクトにすることで顧客に適応しやすくしたり、昨今成功しているビジネスモデルを当てはめてみると、確かにその重要性が理解できます。
キーエンスさんは最近では、自社の営業ノウハウを活かして、SaaSモデルにも転換しており、そのビジネスモデルを変形させてきています。
下記に、ビジネスモデルを簡単にまとめてみましたので、ぜひ新規事業を検討される方に置かれましても、自社のビジネスモデルはどこか、そして、もっと取り組みたいビジネスモデルはなにか、整理する材料にしてみてください。
あなたの活動における、支配的なモデルを考察・参考にするという点も、ブリッツスケーリングが提供する一つの視座かもしれません。
あなたのゲームを、どうブリッツスケーリングするのか?
上記以外にも、スタートアップにおけるマインドセットや、組織成長に伴うマネジメントの問題や、カルチャーフィットも、ブリッツスケーリングでは大事とされています。
例えば、「カルチャーに適合する人ではなく、活力剤になる人を雇うべきだ。」という言葉が本書にあります。
これはイエスマンを増やすのではなく、多様性を持って、あるべきカルチャーに進むことが、会社の進路・ブリッツスケーリングの方向性を導くことがある、ということなのです。
また、補論として、これまでに少し触れましたが、スタートアップ以外の領域でも、ブリッツスケーリングが可能だという論もありますので、広くビジョンを世の中に届けたい、という人にとっても、読んで損はない内容になっているのではないでしょうか。
例えば、実際に書かれていることとしては、非営利では、お金を払うカスタマー(寄付者・社)と、サービスを提供するクライアントのソリューションがマッチしていないと、寄付も継続的にはもらえない、という示唆から、このマッチングが急激な成長を可能にするという示唆されています。他にもオバマの大統領選挙へのテクノロジー活用の事例も書かれています。
ブリッツスケーリングとは、いわば、そのゲーム(ビジネス・政治・非営利など)を大幅に攻略する方法とも言えます。
ゲームにはルールがありますが、ブリッツスケーリングの考え方は、ネットワークが当たり前になった今の時代で、営利/非営利問わず、そのルール上での人的活動を最大化する点において、常に抑えねばならない攻略法なのでしょう。
どう人にディストリビューションし、どんなプロダクト・サービス・活動を届け、どんな資本効率を築き、どんなオペレーションで組織化し、どう競合を巻き込むのか。
今の世界のゲームのルールはいわゆる資本主義システムであり、新自由主義システムであるからこそ、そのゲームのルールにおいて(ルールを壊すのありですが)、どうブリッツスケーリングを応用するのか活かすか、本書から考えみるのも面白いのではないでしょうか。
*英語ですが、動画でも楽しめます。
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