【ソーシャルビジネス】Humaniamの貧困から平和への価値転換【ビジネスモデル】
こんにちは、外資系セールスから転職→現在はベンチャー企業にて起業家を支援している冨田到(@ItaruTomita9779)です。
収益を生みづらい分野で、社会性の高いビジネスを構築している会社って尊敬しますよね。
一般的なビジネスよりも社会貢献の志向性が高い、いわゆるソーシャルビジネスと言われるものです。
今回からはソーシャルビジネスの中でも、私が特に「このビジネスモデルは美しい」と思った事例をご紹介していくシリーズを始めたいと思います。
第一回目は、違法銃を価値のある金属に変えて販売する「Humanium 」のソーシャルビジネスとは?、です。
正直、これからの時代は、GDPを増やして富を増大させ、給料を上げても、本当の幸せはそこにないと思っています。
また、富が均一化された世界では、人生は幸福追求ではなく、自己実現追求の時代が来るとも思っています。
だからこそ、社会の機会の均等をもたらすソーシャルビジネスがより一層大事になってくると考えています。
Humaniumのソーシャルビジネスモデルとは?
Humaniumは、スウェーデンのNGOであるIM(INDIVIDUELL MÄNNISKOHJÄLP)のピーターブルーンという方が考案しました。
エルサルバドルをから始まったHumaniumは、代表的には、AK-47から作られます。
AK-47は「銃」であり、年間50万人の人を殺してしまう、いわば大量破壊兵器ですね。
法的執行機関や警察によって押収された違法銃を溶かして、Humaniumはつくられます。
ヒトを殺す銃を、価値のあるインゴット・金属に変えるのです。
そしてこれをスクラップメタルとして販売して、更に人道的な金属としてブランディングして、商品として売ってしまうんですね。
Humaniumのソーシャルビジネスモデルの美しさ
それでは、Humaniumのビジネスモデルはどこがすごいのでしょうか?
一見するとただのリサイクルにしか見えませんが、いくつか素晴らしい点が見えてきます。
こちらのビジネスモデルの分析は、エフェクチュエーションと新しい経営学の2つのフレームワークで考えていってみましょう。
エフェクチュエーションはいわばビジネスが生まれる起点としての起業家の行動の分析であり、新しい経営学はビジネスモデルの経営学的な分析になりますので、起業からビジネスの成立までを分析します。
エフェクチュエーションによる分析
まずは起業家の観点から、Humaniumのビジネスモデルを見ていきたいと思います。
(エフェクチュエーションには5つの原則がありますが、それに該当しそうな部分を抜粋してお伝えしていきます。)
Humaniumの考案者は、ピーターブルーンさんですね。
手中の鳥の原則
ピーターブルーンさんはグアテマラのギャングが知り合いの肩を撃ち抜くシーンに遭遇しながら、違法銃に対する問題意識をずっと持っていたわけです。
つまり、起業家の共通原則の一つ、「手中の鳥の原則」における「自分は何者か?何を解決したいのか?」という強い内発的動機を満たしています。
内発的動機があることで、起業家は未来を予測するのではなく、自分が望む未来を創る原動力を得るわけですね。
また、NGOであるIMには、銃暴力がはびこる国への貧困削減や開発をしてきた長い歴史を持った団体です。
違法武器に戦うために、犠牲者への財政支援のための、ロビー活動や消費者サポートの獲得を模索し続けていたわけです。
クレイジーキルトの原則
このロビー活動や消費者への訴えかけにおいて、熟達した起業家の共通原則の一つ、「クレイジーキルトの原則」を見ることができます。
クレイジーキルトは創りたい未来の仲間を増やす行動原則です。
ピーターブルーンさん含むIMは、Humaniumのサプライチェーンの確立と、違法銃に苦しむ国々の政府や地方のNGOとの緊密な関係構築に2年以上費やしたんです。
違法銃を単純にリサイクルするだけの事業に見えますが、違法銃を回収する政府との関係や、それを溶かす金属業者、そしてそれの加工業者が必要になってきます。
加えて、Humanium Metalを作るにはブランド・製品デザイナーや、アーティストとも協力しないと、人道的な金属としての地位は確立できません。
そして、Humaniumは、スウェーデンの主要なデザインブランドとのコラボレーションを開始しています。
- 時計メーカーTriwa
- 不動産デベロッパーOscar Properties
- 自転車メーカーBikeId
- ホームアクセサリーブランドSkultuna
多様な金属の卸先や加工先を有しているのも、素晴らしい起業家的なクレイジーキルトと言えます。
レモネードの原則
また、政府にとって不要なものを、人道的な金属として、価値を転換させることは、「レモネードの原則」に通ずるものがあります。
レモネードの原則はある人にとっては価値のないレモンを、砂糖を入れてレモネードにして売る、ことから転じて、不利な状況や材料でも、未来を切り開くために上手く活用してしまう行動になります。
違法銃というある種、課題の源泉であり、平和のビジョンを妨げるモノを、逆に利用する、ピーターブルーンさんの機転ですね。
素晴らしいビジネスというものは、ビジネスモデルだけではなく、起業家精神が非常に重要になってきますし、むしろ起業家精神がないと、未来は切り開けません。
「新しい経営学」による分析
次に、ピーターブルーンさん含むIMの素晴らしい起業家精神から、どんな美しいビジネスモデルが生まれたのでしょうか?
新しい経営学を参考にターゲット、バリュー、ケイパビリティ、収益モデルの観点から分析します。
従来のビジネスや競合となりうるビジネスとHumaniumを比較してみましたので、下記の表を御覧ください。
・通常の金属供給業者 | ・Humanium(IM) | |
ターゲット | ・金属製品の製造業者 | ・違法銃の処分コストに困る政府、貧困削減を目指す国家 ・人道的なブランドを好む金属製品の製造業者、クリエイター |
バリュー | ・安くて品質の良いレアメタルの安定供給 | ・不用品の回収によるコストダウンと、収益の一部の寄付による貧困削減 ・エシカルな消費とおしゃれを楽しめるレアメタルの供給 |
ケイパビリティ | ・鉱業業者、製造業者とのパイプ | ・政府・加工業者・製造業者・クリエイター・NGOなどの多様な業者との強固なサプライチェーン ・政府にとっては不要な銃=材料の低コスト入手 |
収益モデル | ・レアメタルの供給、加工、販売 | ・人道的なレアメタルの供給販売 |
当然、一般的なレアメタルを販売するものよりもターゲットが絞られる分、スケールを目指したものではありませんので、絶対的な収益のパイは劣るでしょう。
他方で、違法銃という政府にとって不要なものを金属に変えることで、人道的である、Humaniumならではのバリュー=付加価値をつけることに成功しています。
その金属であるHumaniumはエシカルなものを求める市民にクリエイターを通して、供給され、その収益は貧困の削減に寄付されるサイクルです。
一方では不要なものが、他方では価値を生むものに、しかもそれが社会の貧困すらも削減するサプライチェーンを構築しているのです。
違法銃による暴力をなくすビジョンが、巡り巡って貧困改善にまで繋がっていく、美しいソーシャルビジネスモデルですね。
社会の負を人間の認知を逆転させ解決へ
Humanium Metalのソーシャルビジネスモデルは、人間ならではのモノの価値や値付けを上手く利用した点が、素晴らしいと言わざるを得ません。
人間は、ダイヤの希少性に価値を見出したり、会社のビジョンやミッションなどに共感して、合理的とは言えない行動を取れる生物です。
政府にとっては不要な違法銃を、「人道的」という形でリブランディングをする、人間のモノへの価値設定を相手によって使いこなせばこそ、価値を説き続けたからこその、ビジネスモデルですね。
また、銃などの武力よって生じる世界への損失は、年間4,000億ドルと推定されているそうです。
この損失は、平均的な経済のGDP成長率を少なくとも年に2%減少させるレベルのもので、富が整ってない途上国にとっては深刻な課題になります。
Humaniumは、貧困から平和への価値転換に挑んだ美しいソーシャルビジネスモデルなのです。
(実際の製品は下記からもご参照いただけます。)
ビジネスモデル2.0図鑑にも載っています、図解が見たい方はぜひ!
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