【書評】「イノベーションの理由」は「予測不可能への正当化」にあり【要約】

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【書評】「イノベーションの理由」は「予測不可能への正当化」にあり【要約】

こんにちは、外資系セールスから転職→現在はベンチャー企業にて起業家を支援している冨田到(@ItaruTomita9779)です。

さて、突然ですが、皆さんの会社は新しい事業への取り組みに、積極的でしょうか?、またそれが実現できているのでしょうか?

仕事でイノベーションや新規事業をサポートしていると、その取組がうまくいく・いかない組織の特徴がよく理解できますが、実行側で集中していると、そのポイントを忘れがちです。

今回は、大企業や中小企業がいかにイノベーションを起こすことができるのか?ということを「イノベーションの理由」という本の書評を通じて、考えてみたいと思います。

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内容(「BOOK」データベースより)

イノベーションをいかに実現するか。革新的なアイデアや技術は、不確実であるがゆえに社内外で理解されにくく、抵抗や反対に遭いやすい。どのようにそれらの壁を乗り越え、新しいアイデアや技術を具体的な製品やサービスとして事業化し、経済的な価値をもたらす成功へと導くのか、大河内賞を受賞した23のケースから明らかにする。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

武石/彰
京都大学大学院経済学研究科教授青島/矢一
一橋大学イノベーション研究センター教授軽部/大
一橋大学イノベーション研究センター准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

そもそも、イノベーションとは?予測できるか?

さて、この「イノベーションの理由」という本には、下記のような一節があります。

イノベーションの実現には、不確実性故に事前には成功の見通しがない中で、しかし他者の資源を動員しなくてはならない、という矛盾がつきまとい、資源動員への壁が立ちはだかる。だが、革新的だが不確実性の高いアイデアからイノベーションを実現することを目指すものは、この壁を乗り越えなくてはならない。この壁を乗り越えたものだけがイノベーションを実現し「想定外の成功」にたどり着くことができる。では一体、この壁はどのようにして乗り越えることができるのだろうか。本書はこの問題に焦点を当てる。イノベーションの実現を目指す者 ―以下、彼/彼女を「イノベーションの推進者」と呼ぶこととする―は、自らの革新的な不確実性に満ちたすべき企てが客観的な経済合理性を示せない中で、どうすれば壁を乗り越え、他者から資源動員を満たすことが可能になるだろうか

ここで、2つの重要なポイントがあります。

1つ目は、多くの場合、イノベーションそのものは、予測することができないということで、2つ目は、予測できないことを他者と組織と意思決定を行うことが難しい、ということです。

なぜ、この2つが重要なのかというと、予測できるのであれば誰でもイノベーションができているはずですが、できていないわけです。だからこそ「これって本当にうまくいくのかな?」というイノベーションの種を組織が「やるぞ!」と意志決定することが大切なわけです。

すなわち、「イノベーションの理由」とは、多くの場合、”予測できない状況の中”で、他者と一緒に”非合理的な意思決定ができる”ことが、大事になってきます。(組織の場合、新規性と予測性はトレードオフになることが多いです。)

下記は、「イノベーションの理由」に記載のある図表ですが、ビジネスの成功と失敗を、事前に予測できたものと、予測できないものに分けた4象限になります。

想定外の成功(事前に評価が低く、事後の評価が高い)を、我々が起こしたいイノベーションとして捉えると、組織的にイノベーションに取り組むことの難しさが整理できる図になります。

以上を乗り越えた時にイノベーションは発生し、それこそが「イノベーションの理由」であり、多くの新規事業を担当する人々や、組織で新しいことをする人が直面する課題なわけですね。

この事前に予測できないことを、組織で意思決定することは会社の文化にもよりますが、かなり難しく、隠れてやるか、役員クラスに内通者を見つけるか、もしくは転職するかも検討する必要があります。

イノベーションのための「正当化」

そして、組織的にイノベーションを起こすためには、事前評価が低いそれを、集団的に正当化する必要があります。

この問いについて、どのようにして答えを探り出していくか。そのための切り口とするのが、イノベーションのプロセスを「新規のアイデアを経済成果に結びつけるための資源動員が社会集団から正当化を獲得していく過程」と捉える視点である。

ここに資源動員という言葉がある通り、イノベーションはA×Bの新結合になるので、組織で行う場合は、それに必要な会社資源(リソース)を引っ張ってこないといけません。

資源動員ができなければ、影響力のあるイノベーションへの道は遠いわけです。例えば新規事業を行うためには、その事業を成り立たせる資源動員のためにも、事前評価が低いプランを正当化しなければならないのです。

この正当化プロセスをよりややこしくするのが、そのイノベーションの対極にある従来の価値基準になります。(例:自動車会社がUberのビジネスモデルをしづらい、など、下記のイノベーションのジレンマが参考になります。)

そこで、「どうやって正当化すれば?正当化が困るんだけど」というお声も多く、そこのセオリーを次点で見ていきましょう。

イノベーションのための「支持者の広さと豊かさ」

さて、ではこの正当化プロセスではありますが、どのような正当化を得ることが重要なのでしょうか?

「イノベーションの理由」では、”花王のアタックの事例”や”セイコーエプソンの自動巻発電クオーツウォッチの事例”などから、この正当化のプロセスを理論的に抽出していますが、下記のようなまとめの一節があります。

つまり、資源配分のどのような社会的仕組みであろうとも、イノベーションの実現にとって鍵となるのは、潜在的支持者との関係の「広さ」と潜在的支持者とやりとりされる情報の「豊かさ」の間にある矛盾を克服して、潜在的支持者との接点を拡大すると同時に、資源動員量の高い支持者の出現確率を高めることにある。そして、これこそが、創造的正当化プロセスによって実現されることなのである。

この正当化には、上記の引用からは、下記の2つが重要であることが理解できます。

  1. 潜在的支持者との関係の「広さ」
  2. 潜在的支持者とやりとりされる情報の「豊かさ」

下記の引用にもあるように、広さというものは、自社内だけではなく、顧客や市場のステークホルダーから幅広く支持を得ることが大事になります。顧客だけではなく、自社内の味方も大事、ということなんですね。

しかし、クリステンセンは、顧客と言う単一のステークホルダーを通じた正当化プロセスに焦点を当てており、創造的正当化を可能にするその他の多様な正当化ルートには必ずしも言及していない。その点、様々な正当化の理由やルートを体系的に整理した本書には、新たな貢献があると思われる。

また、豊かさというものは、イノベーションをもたらす事業の成功のために、ステークホルダーとの密なコミュニケーション、顧客の深いニーズを捉えることや、社内のリーダーが製造の意思決定を起こすための信頼関係の醸成が大事になります。

この正当化を得ることの重要性は、言い換えると、”組織内外を含む他人からの共感”であり、下記のエフェクチュエーションにおける市場の「間主観的形成」からも理解することができますので、よろしければご参考ください。

イノベーションの正当化の種類と実践手段

また、このイノベーションの正当化には下記の通り、いくつかのパターンがあります。

正当化のタイプの概念的整理という点では、第1章で触れた、サックマンによる先行研究がある。サックマンは、正当性を、社会で容認される法規則やルールなどに基づく「道義的正当性」、暗黙の価値観や信念による事業に基づく「認知的正当制」、そして正当性を訴える相手の理解や好みに基づく「実践的正当性」と言う3つのタイプに整理している。さらに、正当性を確立する戦略として、支持者に合わせる、支持者を見つけ出す、そして支持者を操作する、という3つの戦略がある、といった整理もしている。

まず、正当化の概念でいうと、下記のとおりです。

  1. 社会で容認される法規則やルールなどに基づく「道義的正当性」
  2. 暗黙の価値観や信念による事業に基づく「認知的正当制」
  3. 正当性を訴える相手の理解や好みに基づく「実践的正当性」

例えば、1番目で言うと、ルールのようにしてしまうことになるので、国家的にベンチャーやスタートアップを優遇する、もしくは会社的にルールを作ってしまうことになります。

後者の点で言うと、Amazonはイノベーションを許容できない中間管理職を首にしてしまうこともあるそうで、ここまで激しくできる場合は、非常に強い正当化になりえます。

この会社的にイノベーションを起こす、という意味では、下記の両利きの経営における「深化と探索」をIBMやAmazonがどうやってきたか、という事例は参考になる部分があるかと思います。

2番目で言うと、会社の文化的にイノベーションを推奨すること、例えばアメリカのスリーエムの15%カルチャーを代表するように、挑戦と失敗の許容度が高い組織からは、それを暗黙的に正当化することが学べます。

3番目については、社外の顧客が「買いたい」と言っていることや、創業社長がトップダウンで取り組みに共感をしてくれるなど、組織を動かす実践的な正当化も、参考になるポイントです。

また、正当化のための戦略で言うと、下記のような戦略があります。

  1. 支持者に合わせる
  2. 支持者を見つけ出す
  3. 支持者を操作する

以上の通り、いかに権力がある支持者を社内外に見つけ出し、組織にYesと言わせるかが、非常に難しいですが、大事なポイントになってきます。

イノベーションの罠に嵌まらないために

さて、上記の通り、「イノベーションの理由」というものは言ってしまえば、権力のある支持者と協力するという、至極当たり前のことで、正論地味た答えになってしまいますが、実行に悩まれる方は多いでしょう。

例えば、イノベーションを推進する上で、本書では下記のような引用もあります。

イノベーションの推進者に与えられる時間や資源は有限である。ゆえに、創造的正当化に注力すればするほど、肝心の技術開発が手薄になる危険性がある。

これは、イノベーションにおいて、支持者を見つけるだけではなく、イノベーションの種や事業自体がそもそもないと、話しなりませんよ、ということで、イノベーション自体の磨き込みと支持者の発見を両立する必要があるということです。

これは、大学初ベンチャーでもよく見かけることなのですが、イノベーションを起こすのような技術だけが磨き込まれ、顧客(=支持者)の困りごとと市場が発見できずに、事業化できない、というケースもよく拝見します。

自戒も込めて、イノベーションを生み出す人と、そこから支持者を見つけ出す人の役割分担は、自分が天才でないという自覚があればこそ、必要なのです。

組織論的な話をすると、アクセラレーターのようなスタートアップと大企業の連携に置いても、カタリストという大企業のリソースとスタートアップの事業をつなぎ合わせる人材が肝になることもあるので、イノベーションのバランス感覚を役割分担することが大事なのかもしれません。

また、下記のようなイノベーションの阻害要因も組織的にどう組み込むかは、検討が必要な一節かと思います。

確かに、外部市場の淘汰基準に対して組織が敏感であることが重要である。しかし、その一方で、顕在化している市場の論理だけを適用していては、多くのイノベーション活動が、内部の淘汰プロセスの中で、息絶えてしまう

例えば、自社の売上が下がっていると、競合から市場を取り戻そうと、自分たちの目の前の顧客への注力に傾倒してしまうと、同じ市場にいるスタートアップなどのローエンド・無消費市場のイノベーションに気づかずに、市場から淘汰されてしまうということです。

これは、ヘンリー・チェスブロウからのアナロジーにもなりますが、自社のビジネスモデルに固執したクローズド・イノベーションのように、自社内に閉じた価値基準でビジネスを展開していると、イノベーションの波に飲まれてしまうことを、示唆しているようにも思えます。

イノベーションを組織で生み出すには、「事前の予測不可能性」と「支持者の広さと豊かさ」と「正当化」をバランス良く実行していくことが求められます。

会社は生き物のような組織になり、個社ごとにそのステップや状況が異なりますので、どうしたら必ず成功できるか?ではなく、「どうしたら失敗してしまうのか?」という意識を持って、実行していきたいものです。

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